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『きかんしゃトーマス キング・オブ・ザ・レイルウェイ トーマスと失われた王冠』長文考察50連発

研究・考察
05 /18 2014
現在、きかんしゃトーマス キング・オブ・ザ・レイルウェイ トーマス失われた王冠が全国で公開されています。
もう見に行った方、まだ見ていない方、全く見る予定のない方、色々いるかと思いますが、本作の内容を一層面白く感じてもらうため、これまでTwitterで呟いてきたことも含めこの作品に関する個人的考察を淡々と述べていこうと思います。
原作の内容も踏まえた小ネタから信憑性皆無の独自こじつけ深読み解釈まで、可能な限り本作の行間を読めればと考えています。後半はネタバレも含みますので未視聴の方はご注意ください。と言うか、未視聴既視聴に関わらず途中で読むのが苦痛になる方が大半でしょうからくれぐれも無理して読むのはご遠慮ください。責任は負いかねます。


☆鎧
本作では、冒頭含め西洋風の鎧が計四回登場します。これらはいずれもノランビー伯爵のコレクションの一部であり、誰も入っていないはずの鎧が動くのを見てパーシーが怯えるシーンは終盤への伏線となっています。鎧の中に騎士の幽霊でも入っていると思ったのでしょうか。そう言えば、第5シーズンに登場したバートラムも「戦士の幽霊」などと呼ばれていましたね。
さて、この鎧は恐らくプレートアーマーと呼ばれる種類のものでしょう。プレートアーマーは古代ギリシャや古代ローマの時代にその原型が形作られた鎧で、丈夫で重量はあるものの全身を覆っていて耐久力もあり、騎馬戦などに適していました。しかし、中世になると機動性が重視されて鎖帷子が使われ始めます。この頃からプレートアーマーは衰退し始めますから、10世紀を生きたであろうゴッドレッド王や騎士達が着用していたのはプレートアーマーの歴史の中でも比較的後期のものでしょうか。
しかし、11世紀から13世紀にかけ十字軍の戦いの頃からプレートアーマーは再び使用されるようになり、14世紀から16世紀頃に全盛期を迎えます。この頃のプレートアーマーは主に裕福な貴族や騎士が着用しており、指揮官の威厳を示す目的もあったようです。使用が多かったのは主にドイツやイタリアですが、イギリスでもヘンリー8世が1519年に甲冑製作所を建設するなどしています。この時代のソドー島の歴史を見てみると、15世紀初頭、ノランビー伯爵の祖先に当たり後に初代ソドー伯となったアーノルド・ド・ノーマンビー卿がピーター・ド・リグビー卿の協力を得て軍隊を率い、横暴な支配者を島から追放して島民に賞賛されました。とすると、この時アーノルドがゴッドレッド王と同じくプレートアーマーを着用していた可能性は高く、本作のノランビー伯爵が鎧を始めとする武具に興味を持っているのはこうした背景が理由なのかも知れません。
17世紀になると実際の戦闘でプレートアーマーが使われることは少なくなり、装飾品としての色が濃くなります。現代では歴史愛好家がコスチューム・プレイに使用することもしばしば。
以上から、本作で序盤から中盤にかけ登場する鎧は10世紀頃or15世紀頃or17世紀以降に作られたもの、終盤に登場する鎧はシーン的に多分17世紀以降に作られた装飾用の鎧と推測することができます。

☆OP
本作よりCG制作会社がニトロゲン・スタジオからアーク・プロダクションに変更されました。そのせいか、オープニングシーケンスも全て2DCGで制作されていた前作以前とは雰囲気が大きく異なり、本作ではソドー島の鉄道が描かれた絵の上を本編に登場するのと同じ3DCGのトーマス達が走る、という演出になっています。意図的なものか機関車の顔は殆ど映りません。
このOP演出についてですが、動かない風景に対し機関車のみがリアルな姿で動いている、というのはどことなく模型人形劇時代を彷彿とさせます。また、絵に描かれた鉄道の上をトーマスが走る光景はトーマスの玩具で遊ぶ子供の夢を映像化したものにも見えます。いずれにせよ、本作のテーマの1つとも言える「原点回帰」を象徴するOPでしょう。

☆ソドー島の城
OPの最後に登場したウルフステッド城周辺の絵がズームアウトされていき、その絵が絵本の表紙に描かれた大きなソドー島の絵の一部であったことが明らかになります。そのまま絵本のページがめくられ、最初に現れるのは中世のソドー島が描かれた絵。島には全部で九つの城が描かれており、当然島の中心部よりやや西寄りに位置する最も大きな城はウルフステッド城でしょうが、では残り八つはそれぞれどの城を表しているのでしょうか。
まず、島の北部にある城。これは多分ロッホ城でしょう。ロッホ城はTVオリジナルの城で、ブラック湖(ダッビン・モアー湖?)やブラック・ロッホ線の近くに建っており観光名所の一つです。スコットランド出身のカレン卿が所有していて、カレン城とかカラン城とも呼ばれます。パンフレットの地図やWikiaでは第5シーズンの「トビーのたんけん」等で登場したのと同じ城だとしていますが、私は違う城だと思っています。
次に、ウルフステッド城の西にある城。これは三つの説が考えられます。一つ目はアールズバーグ城。海辺の城で、ゴッドレッド・マックハロルド王が町を整備したと言われています。二つ目は、第5シーズンの「トビーのたんけん」等で登場し、トビーやハット卿の尽力で観光地となったTVオリジナルの城。TV版におけるトビーの支線は島の北西部にあると思われ、なおかつ海や古い鉱山が近くにあることからこの辺りにある城ではと推測します。因みに私はこの城がアールズバーグ城と同一の城だと考えています。三つ目は、第9シーズンの「エミリーはなんでもしっている」等に登場したこちらもTVオリジナルの城。かつて王様と王妃様が住んでいたとされ、現在は廃墟になっています。パーシー、トビー、メイビスが近くで働いていたことからトーマスの支線周辺の城ではと思いこの辺りと推測しました。
続いて、その城の南東に位置する城。これは二つの説が考えられます。一つ目はサドリー城。原作の設定によれば、サドリーの町は要塞化され古代から近世にかけ島の都として栄えていたそうですが現在は廃れサドリー城も城跡が残るのみです。二つ目はクロスビー城。これはマガジンストーリーにのみ登場する設定ですね。
それから、ウルフステッド城の東、島の中心部よりやや北にある城。これはゴッドレッド城と思われます。この城の所在地ピール・ゴッドレッドもやはり要塞化されていました。現在は産業的に進歩している町ではありますが、ゴッドレッド城は城跡だけが残っており歴史的な町としての存在は薄くなっています。
ゴッドレッド城のほぼ真南にある城については二つの説が考えられます。一つ目はクロンク城。サドリーやピール・ゴッドレッドと並びこの町もかつては要塞化されていました。12世紀、当時のソドー王シグマンドがこの地を首都と定めクロンク城が建設されましたが、この城もやはり現在は廃城と化しています。因みに、12世紀に建設された城ですからこの城はゴッドレッド王の時代にはまだ存在していなかったことになります。とすれば考えられる二つ目の説は、絵の位置から少し距離はありますがケルスソープ城。アールズバーグ城などと同様、ソドー島の城の中では珍しく城が廃れず原形を留めている城です。
ゴッドレッド城とクロンク城の間より少し東にはソドー城と思われる城があります。こちらはTVオリジナルで、高山鉄道付近の湖(スカーロイ湖?)のほとりに建っている古城です。
更にその東に城が一つあります。これは多分ですがクロバンズ・ゲート近郊に二つ城がある内のどちらかではないでしょうか。この二つの城の詳細は不明ですが、恐らくは中世にゴッドレッド・クロバン王がこの近くの峠でヴァイキングと戦った頃の城ではないかと思います。
そして島の南東部にもう一つ城があります。この城について考えられる説は二つ。一つ目はロルフ城。ロルフ城は要塞化された教会としての城であり、11世紀頃に栄えていたようです。原作の設定にある城ですがTVでも第7シーズンまで背景としてよく登場していました。二つ目はバラッドウェイル城。この城の詳細は不明ですが、バラッドウェイルはソドー島で初めて鉄道が敷設された町として有名です。
殆どこじつけに近いものがありますが、絵に描かれている各城に設定や劇中に登場する城を当てはめるとこのようになります。だから何だという話ですが、ソドー島の絵が登場するワンシーンからでもこれだけ島の歴史について想像の余地がある、ということです。
※追記 番組鉄道顧問サム・ウィルキンソンによって公開されたテレビシリーズ版ソドー島地図によれば、テレビ版のソドー島にはゴッドレッド城が存在しない代わりに近郊にはロッホ城とブラック湖があります。また、トビーが発見したのはティドマス・ベイ城という城。ソドー城があるのはスカーロイ湖とは別の湖とのこと。

☆ゴッドレッド王の話
鉄道が出来るよりはるか昔のソドー島は何人かの王様によって支配されていました。その中でも島民から愛されていた最も偉大な王として紹介されるのがゴッドレッド王。原作を知っている方なら、19巻『山にのぼる機関車』で登場した機関車ゴッドレッドが、自分の名前は王様の名から取られたと鼻にかけていたのを覚えていると思います。
ところで、原作の詳しい設定を見てみると中世のソドー島にはゴッドレッド王が二人存在しました。
一人目はゴッドレッド・マックハロルド王(?〜989)。979年にソドー島及びマン島の王として即位し、島に黄金時代と呼ばれる平和をもたらしました。最大のライバルであったオークニー伯シグルドと982年にマン島で、984年にソドー島のピール・ゴッドレッド付近で戦い撃退しましたが、遂に989年、マン島の戦いでシグルドに敗れ戦死しました。架空の人物です。
二人目はゴッドレッド・クロバン王(1045?〜1095?)。ゴッドレッド・マックハロルドの息子ハロルドの息子、つまりマックハロルドの孫に当たります。父の亡命先であったアイスランドに生まれ、後にソドー島の王に即位して1079年スカイヒルの戦いで敵軍からマン島を奪還し、1089年にはソドー島に侵攻してきたノルマン人を打ち破るという大活躍をしました。実在の人物です。
では、本作のゴッドレッド王は二人の内どちらなのかと言うと、恐らく前者でしょう。まず第一に、本編でナレーターが「平和な日々が続いた」と言っていますが、英語版ではここではっきり「Golden Age(黄金時代)」と言っています。また、ウルフステッド城門の絵のシーンで左下に天の川のようなものが描かれていますが、これはゴッドレッド・マックハロルドがマン島に上陸した際、川の水面に映る星を指差してマン島民に自分の夢を語ったという逸話に因んだものかも知れません。しかしながら、ゴッドレッド王が侵略者を海に追い込むシーンは、ゴッドレッド・クロバンがノランビー海岸からソドー島に侵入した侵略者をおびき寄せている間に彼らの船を破壊させて勝利したという逸話もイメージさせます。ですから、ゴッドレッド王はもしかしたらマックハロルド王とクロバン王、両方の設定を折衷した人物なのかも知れません。とは言え、曖昧なままにしておいては後の考察に影響が出るのでここではゴッドレッド王=ゴッドレッド・マックハロルド王ということにしておきます。

☆王冠騒動
ゴッドレッド王は金の王冠を持っていました。ところがある夜、その王冠が三人組の泥棒によって盗まれてしまいます。彼らはすぐに捕縛されましたが、それ以来、金の王冠を見た者は誰もいませんでした。この王冠に関するくだりは全て本作オリジナルの設定ですが、これを原作の設定と照らし合わせてみると、王冠が盗まれた時期や犯人の正体と動機、それを捕縛した民衆の派閥についていくつかの説が浮上してきます。
(1)ゴッドレッド王の治世ないし死後に、単なる盗賊が金銭目的で王冠を盗み善良な島民達に捕縛された。これが最も一般的な考え方でしょうが、以下のような難しい考え方もできます。
(2)ゴッドレッド王の治世ないし死後に、彼と敵対していた勢力の一派が王権奪取を正当化するために王の象徴である王冠を盗みゴッドレッド派の民衆に捕縛された。ゴッドレッド王が島民に愛されていたという事実から彼の治世に一般島民が王冠を盗んだ可能性は低く、そうなるとオークニー伯シグルドを始めゴッドレッド王と敵対して戦った勢力が犯人として有力になってくるわけです。かつてゴッドレッド王に敗れた勢力の残党なら復讐、ゴッドレッド王に勝利したシグルド配下の者なら記念としての意味合いも強いかも知れません。現にシグルドはゴッドレッド王を倒した後、事実上のソドー島の王となっています。
(3)ゴッドレッド王の死後に、彼の後継者候補の一派が王権後継を正当化するために王冠を盗み対立していた勢力の民衆に捕縛された。(2)に関連した説です。分かりやすい例を挙げると、ゴッドレッド王の死の直後にソドー島を支配したシグルドの横暴を忌々しく思ったハロルド(ゴッドレッド王の遺子)の後見の者達が、彼を新たな王として立てるべく王の象徴である王冠を盗んだところシグルド配下の者達に捕縛された、という考え方ですが、勿論それより後の時代に後継者争いをした者でも同じように考えることができます。ハロルド王とトールフィン(シグルドの遺子)、トールフィン王とゴッドレッド・クロバン(ハロルド王の遺子)、オーラフ王子(クロバン王の遺子)とシグマンド(後に独立したソドー島の王となる人物)など。関連の有無は不明ながら、シグマンド王が即位する際にピール・ゴッドレッドで戴冠式が行われたということが原作の設定で述べられています。
(4)ゴッドレッド王の死後に、虐げられていた労働階級の者達が政権に対するストライキないしクーデター目的で王冠を盗み上流階級の民衆に捕縛された。この説は、後に王冠が発見された場所が重要となっています。ネタバレになるので詳しいことは「鉱山と王冠」の項で述べます。
本当のところ王冠騒動にどんな意味が込められているのか我々視聴者には分かりませんが、このように想像を巡らすことで本編の裏に別のドラマを見出すことが可能です。因みに、どうして犯人を捕縛したのに王冠の隠し場所を白状させることができなかったのかと考えると、白状させる前に民衆が犯人を処刑してしまったのではないか、と結論付けられそうな気がします。歴史の残酷さを感じますね。

☆ウルフステッド城
ゴッドレッド王がいなくなり王冠も失われ、その後ウルフステッド城はソドー伯爵家の領地となったものの、城はすっかり寂れてしまい廃墟も同然の状態になっていました。ここまでが本作のプロローグです。
原作の設定を見てもやはりウルフステッドにソドー伯爵家の居城跡が存在していますが、ウルフステッド城が元々ゴッドレッド王の居城だったというのは本作オリジナル設定です。とは言え、ウルフステッド城がいつ建設されたか、ゴッドレッド王がどの城を居城にしていたかなどは原作の設定で明言されていませんし、ウルフステッドの町がソドー伯爵家より前の時代から城郭地だったという原作設定もあるようなので、本作の設定も全くあり得ない話ではありません。因みに原作の設定では、15世紀の初めにノランビー伯爵の祖先であるアーノルド・ド・ノーマンビー卿がソドー伯爵に叙されてこの城を屋敷としました。後に子孫が1715年に爵位と領地を没収されますが、1873年ノランビー家の当主だったジョン・アーノルド・ノランビーにそれらが返還され、更に年月を経てロバート・ノランビー伯爵の代に至った、という流れになっています。
原作設定のウルフステッド城は建物がサドリーの島立文書館に貸し出されているということなので、歴史財産を多数保管しているという点に関してはTVとも共通していることになるでしょう。ウルフステッド城まで鉄道が伸びているのも本作オリジナルですが、これに関しては「ウルフステッド城鉄道」の項で詳しく考察しようと思います。また、絵本の中の城跡から実物の城跡へ映像が移るというさりげない演出がなされますが、これはラストへの伏線となる案外重要なシーンです。

☆騎士から機関車へ
中世にゴッドレッド王が従えていた勇敢な鎧の騎士達も今では島から姿を消し、鉄道が敷かれた現在のソドー島では騎士の代わりに機関車達が主役になっている、ということが序盤で語られます。
機関車を騎士に例えるのは一見ナンセンスにも思えますが、この発想はやがてスティーブンの登場シーン、そして本作のラストにも関わってくる伏線です。

☆エドワードとメインランド
本作のエドワードはさほど活躍があるわけではありませんが、序盤でエドワードがソドー島からヴィカーズタウン橋を経由してメインランドへと渡るシーンがありますので、これについて少し触れたいと思います。
トーマスもそうですが、エドワードは他の機関車に比べソドー島へ来る前の経歴などが裏設定を含めほぼ明らかになっていません。が、彼のモデル機はファーネス鉄道K2クラス「ラージャー・シーガル」という機関車ですから、恐らくエドワードも製造されてからソドー島に来るまでの約20年間はファーネス鉄道に所属していたのだろうと推測できます。ファーネス鉄道と言えばイングランド北西部のファーネス半島を走っていた鉄道で、1922年に統合されロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道(LMS)の一部となりました。メインランドにあるソドー鉄道本線の終着駅がバロー=イン=ファーネスであることからも分かる通り、ファーネス鉄道はメインランドの中でも特にソドー島に近い鉄道でした。つまりエドワードにとってみれば、橋を越えてメインランドに入るだけでそこはもう故郷も同然なわけです。しかし、自分の支線での仕事が主要任務である彼は本来メインランドに行く機会はないはず。もしかすると、トップハム・ハット卿はエドワードの出自を理解した上で意図的に彼に里帰りの機会を与えているのかも知れません。

☆ヴィカーズタウン橋
ソドー島は実在する島ではありませんが、ソドー島の東部分がある場所には現実世界だとウォルニー島という島が存在します。この島にある町ヴィッカーズタウンはソドー島東端の町ヴィカーズタウンのモデルです。さて、ウォルニー島とメインランドとの間にはウォルニー海峡があり、ここには1908年に開通した全長343mのジュビリー橋(ウォルニー橋)という跳開式道路用可動橋が架かっています。一方トーマスの劇中ではジュビリー橋の代わりに、若き日のトップハム・ハット卿が設計し1915年に開通した全長37mのヴィカーズタウン橋という跳開式鉄道用可動橋が架かっています。橋の全長差から、ウォルニー島よりもソドー島の方が東海岸線がメインランドに近いという無益な情報も得られます。余談ですが、ジュビリー橋の全長はスペンサーが16台収まる長さ、ヴィカーズタウン橋の全長はスペンサーが1.7台収まる長さです。
原作でもTVでも機関車達が直接ソドー島とメインランドを行き来する描写はこれまでいくつもありましたが、いずれも途中で経由するヴィカーズタウンの可動橋が描かれることはありませんでした。ウルフステッド城やゴッドレッド王と同様に原作の裏設定が本作で初めて活かされたわけですが、ヴィカーズタウン橋は本作のストーリーにおいてそこまで重要というわけでもなく、登場が比較的唐突です。しかし登場の際、視聴者に予め城の跳ね橋を連想させておくことで、後に登場するウルフステッド城の跳ね橋に関する伏線としての役割を担っています。

☆ノランビー伯爵の素性
メインランドからスペンサーの列車に乗って帰って来た本作のキーキャラクター、ソドー伯爵ロバート・ノランビー卿。トップハム・ハット卿の旧友でとにかく陽気で明るい人物です。スペンサーに連れられて来た高貴なゲストのためにハット卿が駅でパーティーを開く、というシチュエーションはスペンサーとボックスフォード公爵夫妻の初登場回を思い出しますね。本作のスペンサーはボックスフォード家からノランビー伯爵へ一時的に貸し出されている模様。
さてそれでは、ノランビー伯爵の出自について詳しく迫っていきましょう。「鎧」や「ウルフステッド城」の項、それに「ソドー島史」の記事でも述べましたが、ノランビー家には長い歴史があります。1404年、時のソドー島の支配者ヘンリー・パーシーの横暴に対し島民の反乱は激しさを増していました。これを見たイングランド王ヘンリー4世はアーノルド・ド・ノーマンビーに命じてパーシー家を島から追放させます。この時のノーマンビーの功績が認められヘンリー4世から伯爵の地位を認められたのがソドー伯爵家の始まりです。一時的な爵位剥奪はあったものの、19世紀後半にジョン・アーノルド・ノランビーが再び伯爵に任じられ新たな初代ソドー伯爵となりました。因みにデューク達が働いていたミッド・ソドー鉄道を開通させたのもこの人です。また、ランカスター公領議会の一件によって島民はこの頃からソドー伯爵を「公爵」と呼ぶことが多くなります。つまりソドー伯爵=ソドー公爵というわけです。原作では、このノランビー家の血を引く「公爵」という人物が二人登場しています。
一人は、ジョン・アーノルドから数えて四代目のロバート・チャールズ・ノランビー公爵。軍隊における階級は中佐で、ソドー連隊を率いていました。原作25巻『きえた機関車』の昔話で、ミッド・ソドー鉄道に置き去りにされたデュークが1947年に公爵のことを考えながら眠りにつきます。しかし、公爵は既に「この前の戦争」すなわち第二次世界大戦における1943年の北アフリカ戦線で戦死していたのだということが語られています。
もう一人は、五代目のリチャード・ロバート・ノランビー公爵。四代目ロバート・チャールズの息子であり、1940年生まれであるため父が戦死した時やミッド・ソドー鉄道が閉鎖された時にはまだ幼い少年でした。20巻『100さいの機関車』つまり1965年の時点では既に成人しており、スカーロイ鉄道(高山鉄道)のループ線開通式に現れました。また、25巻つまり1969年にはデュークが発見された機関庫へ行き彼との対面を果たしています。
さて、ソドー伯爵家の人物でロバート・ノランビーという名を持っているのは上の二人だけです。ではどちらが本作に登場するロバート・ノランビー伯爵のモデルなのか。Wikiaでは後者すなわち五代目を推していますが、私は恐らく前者すなわち四代目の方ではないかと考えています。根拠としては、伯爵の年齢です。三年前の『ミスティアイランド レスキュー大作戦!!』の時代設定が1960年であることから本作の時代設定も60年代と思われますが、原作に登場する二人の公爵(伯爵)の生年を見ると四代目は1918年、五代目は1940年です。すると、本作のノランビー伯爵が四代目と仮定した場合、本作での年齢は40代。劇中のノランビー伯爵は外見的に明らかに老人ですからこの年齢は少し無理があるようにも思えますが、それでも五代目と仮定した場合の20代に比べれば現実味があるでしょう。原作とTVは違うのだから生年なんてどうにでも改変すればいいだろうという意見もあるかも知れませんが、私は原作の細かい設定などは極力尊重したいと考えているので。因みに私は、伯爵の旧友であるトップハム・ハット卿、もっと言えばCG版のトップハム・ハット卿は原作で言うところの二代目チャールズ・トップハム・ハット卿だと考えています。理由は二つあり、一つは二代目ハット卿が四代目ノランビー伯爵より四歳年上でほぼ同世代であることから、旧友であってもおかしくないと考えられること。そしてもう一つは、CG化した頃の作品の時代設定が原作における初代トップハム・ハット卿の死亡時期とほぼ一致することです(フル模型で制作された最後の作品『トーマスをすくえ!! ミステリーマウンテン』の時代設定は1955年、原作の初代ハット卿の没年は1956年)。以上のような理由から、私は本作のロバート・ノランビー伯爵は原作の四代目ロバート・チャールズであり、またCG版トップハム・ハット卿は原作の二代目チャールズ・トップハムだと考えています。ハット卿の孫の名前が模型版でもCG版でも同じである点などに関しては世襲制とか適当に理由を付けといてください。
少し話が脱線してしまいました。さてここで問題になるのは、原作の四代目ノランビー伯爵が1943年の時点で戦死していることです。さっき言ったことと矛盾しますが、これに関しては寧ろ敢えて原作の設定を覆し、本作では戦死したと思われていた伯爵が実は生きていたということにしてはどうかと思います。本作の伯爵は長い世界探検を経てソドー島に帰って来たという設定ですから、戦死しかけた北アフリカを出発点として戦後に世界探検を開始したと考えればそれっぽいですし、そうなると二十年以上はソドー島に帰らなかったことになりますから、機関車達の多くが伯爵のことを知らなかったりハット卿に非常に歓待されたりしているのも頷けます。昔の武具に興味を持っているのも、自身がかつて軍人だったことが関係しているとも考えられます。
余談ですが、原作の四代目伯爵には妻子がいるはずですが本作の伯爵は帰城時間について約束をする相手がミリーであったり物言わぬ鎧を抱いたりしていることからしてとても家族がいるようには見えません。ですが、伯爵は第二次世界大戦への出征以来妻子と生き別れたままで寂しい思いをしており、その寂しさを紛らわすために鎧やミリー、スティーブンらを心の拠り所にしている可哀想な人なのではとか想像を膨らませることもできます。因みに、日本語吹替版で伯爵を演じたオリエンタルラジオの藤森氏は伯爵を「陽気で明るい独身」と評しています。
更に余談です。自分の城を持っているばかりかその城内に自分の歴史財産コレクションを展示するほどの歴史マニアにして領地内に鉄道を敷き専用機関車を走らせるほどの鉄道マニアであるというノランビー伯爵のキャラクターは非常に濃いのですが、もしこの伯爵が実在した人物のメタファー、暗喩だとしたらどうでしょう。例えば、原作者オードリー牧師の親友であり、自分の牧師館に線路を敷き自分の機関車を走らせて鉄道を経営していた太っちょ牧師ことテディ・ボストン牧師。オードリー牧師の弟であり、大の鉄道マニアであると同時にソドー島の歴史にも深く興味を持っていて「ソドー島のハーウィック初代子爵兼六代目男爵アルバート・レガビー」の異名を持っていたジョージ・オードリー。あるいは、肥満体型の親友がいる鉄道マニアという点を見るとオードリー牧師本人を連想することもできます。トーマスシリーズを作り上げた三人の偉大な故人の魂がノランビー伯爵というキャラクターには宿っているのかも知れません。

☆カモメ
ノランビー伯爵来島の翌日、トーマスはノランビー伯爵が待つウルフステッド城へ荷物を運ぶことになります。長い坂道を登り切って門をくぐったトーマスの前に現れたのは広大なウルフステッド城の敷地、そしてその上を飛ぶカモメ。
ご存知の通りカモメは海など水辺に生息する鳥です。しかし地図や映像からも分かるようにウルフステッド城はソドー島内陸部の山間にある城。カモメが飛んでいるのに最初は違和感を感じました。しかし改めてソドー島の地図を見ると、ウルフステッドの町の近郊にはウルフの泉という大きな泉があります。恐らくウルフステッド城にいたカモメはこの泉の辺りに生息しているカモメなのではないでしょうか。このようにソドー島の地理について知っておくと作品の細かい演出に気付くことができたりします。

☆ミリーの登場
ノランビー伯爵の合図で現れた彼の専用機関車ミリー。フランス製のウェルタンク式機関車で、軌間は高山鉄道と同じですが車体は少し大きめ。ミリーのモデル機はドコービル社製で軌間600mmですから、デュークやルークと同様に設定の段階でスカーロイ達と同じ軌間686mmに変更された様子。性格はと言うと、フランス人の国民性を表すような話好きな性格で少々お転婆な部分があります。
ミリーについて、ファンの多くが注目する点は汽笛です。ミリーの汽笛は長編映画第1作『魔法の線路』で登場した魔法の機関車レディーと同じものであり、長年のファンに対する制作側のサービスと言えます。
また、ノランビー伯爵が世界探検に行っている間ミリーはずっとウルフステッド城にいて走る機会を得られなかったそうです。山の機関庫に置かれ走りたくてもなかなか走ることができなかったという意味ではレディー、あるいはデュークにも境遇が似ていますが、ところでミリーはどれくらい長く機関庫にいたのでしょう?期間については特に言及されていません。極端に言えば、伯爵がソドー島へ戻って来る数ヶ月前に来島した可能性もあるし、伯爵が戦争に行く前つまりトーマスシリーズが始まるよりも前からウルフステッド城にいたという可能性も全くないわけではありません。ただ、ナップフォード駅で伯爵がミリーとの約束について話した際、その場にいた(ソドー鉄道在職期間が長い上に情報通と思われる)機関車達は誰もミリーのことを知りませんでした。となると、ミリーはつい最近ではなくかなり昔からソドー島にいる機関車である可能性が高そうです。尤も、『ブルーマウンテンの謎』でビクターやルークの来島時の事故をトーマスが知らなかった例もありますから一概には言えませんがね。
また、ミリーの来島時期はウルフステッド城にいつから線路が敷設されていたかという話にも関わってきます。これについては「ウルフステッド城鉄道」の項で述べます。

☆ゴードンとスペンサー
本作では事あるごとにゴードンとスペンサーがスピードを競い合います。この二台は、スペンサーが初登場した第7シーズンの「ゴードンとスペンサー」以来のライバルであり、互いにいがみ合っているようで結構勝負を楽しんでいるようにも見えます。どちらも同じナイジェル・グレズリー卿によって設計された機関車、つまりは従兄弟同士であるのも面白い点です。
ゴードンとスペンサーのモデル機の最高速度はそれぞれ174km/hと203km/h。ですから両者が本気で走った場合、一秒間につき8mの差が開くはずです。プライドの高いスペンサーがゴードン相手に手加減する可能性も低く、ゴードンとスペンサーが互角のスピードで競争しているのは少し現実味がない気もしますが、勝敗が決しているはずのレースでその予想が覆されるというのも魔法の島ソドー島におけるある種の魅力と捉えるべきでしょうか。しかし、スペンサーほどの機関車がゴードン如き相手に本気を出すかと言うとそれもまた微妙なところではありますから、やはり少し手を抜いていたと考えるのが妥当でしょうか。まあゴードンとスペンサーならともかく、長編第4作『伝説の英雄』のようにトーマスやヒロがスペンサーと同じ速さで走ったりするのは流石にやりすぎだと思いますがね。
そう言えば、本作の競争シーン等は『伝説の英雄』(以下、HOTRと表記)を踏襲していると見られる部分が多く見られます。例えば、同作で使用されたBGMが本作の競争シーンでもOPテーマ仕様にアレンジされた上で多用されています。また、競争の途中にスペンサーが路線変更するシーンも酷似しています。その他、HOTRとの対比がなされている部分もあり、例えば同作ではゴードンとスペンサーの競争の際にゴードンがフライングした結果スペンサーが負けたのに対し、本作ではスペンサー自身がフライングすることで有利な態勢に持ち込んでいます。更に先に述べた路線変更シーンについてですが、スペンサーにとっての分岐点の存在意義が、HOTRではトーマスとの競争中トーマスに追い付こうとする自分の障害になっているのに対し、本作ではゴードンとの競争中自分に追い付こうとするゴードンに自分の余裕をアピールするための手段になっているように見えます。その後のシーンについても、HOTRでは路線変更をしたがためにトーマスが自分と違う側線へ入った時の対応に苦労していましたが、本作では自らが本線を外れて伯爵の領地へ続く側線に入ることにより、逆にゴードンを困惑させています。こうしたHOTRから本作への変化は、スペンサーの速度向上、ソドー島への慣れ、ゴードンらとの関係の険悪さが以前より解消されたことによる余裕、などが表されているように思えなくもありません。

☆伯爵と高山鉄道
今回、ノランビー伯爵はウルフステッド城再建作業の手伝いをソドー鉄道のトーマス、パーシー、ジェームスに依頼します。しかし、高山鉄道の機関車と同じ大きさのミリーを私有したりブルーマウンテンの採石場を訪れたり高山鉄道用の線路を領地内に敷設したりと、高山鉄道とも大きな関わりを持っています。これには、恐らく本作には登場しないある機関車が関係しているのではないかと思います。その機関車とは、デューク。
デュークは、若き日のサー・ハンデルやピーター・サムと共にミッド・ソドー鉄道で働いていた年寄り機関車です。鉄道が閉鎖された際には彼のみ買い手が見つからず機関庫に置き去りにされましたが、数年後に鉄道ファン達の手によって発見されスカーロイ鉄道(高山鉄道)所属となり、昔の仲間とも再会を果たしました。TVシリーズでは第4シーズンに登場したきり未だに再登場の見込みがありませんが、彼の存在がノランビー伯爵に大きな影響を与えているのは間違いないでしょう。
「ノランビー伯爵の素性」の項でも述べましたが、19世紀後半に初代ソドー公爵に叙されたジョン・アーノルド・ノランビー公爵(伯爵)はミッド・ソドー鉄道の開通に貢献しました。この頃、同鉄道の一号機関車が製造され、公爵(Duke)に因んでデュークと名付けられました。それを誇りとしていたデュークは誰よりも公爵を尊敬しており、何か問題が起きた時の彼の口癖「閣下に申し訳ないことだ」はあまりに有名です。デュークの公爵に対する忠誠心は、初代公爵が死んで二代目、三代目に世代交代がなされても変わりませんでした。そして四代目ロバート・チャールズ・ノランビー公爵が第二次世界大戦へ出征したまま帰らない1947年、鉄道が閉鎖され、デュークはただ公爵の帰りを待ちながら機関庫で眠り続けたというわけです。後に発見されたデュークは、原作では四代目公爵の息子である若き五代目と対面を果たしましたが、ずっと待っていた四代目公爵は既にこの世にはおらず、再会は遂に叶いませんでした。しかし「ノランビー伯爵の素性」での考察の通り四代目ソドー公爵=本作のノランビー伯爵であったならば、第二次大戦で戦死を免れ世界探検をした後およそ二十年ぶりに故郷であるソドー島へ帰って来た伯爵がデュークのことを気にしていないはずがありません。本作ではデュークについて何も言及されていませんから、彼の放置・発見について伯爵がどの程度知っているのか、またデュークとの再会は果たしたのか、などは不明ですが、いずれにせよミリーの件や採石場の件、線路敷設の件などは全て自分と浅からぬ縁のあるデュークと交流を図りたいという心理から来ているような気もします。そう言えば、原作でも20巻で五代目リチャード・ロバート・ノランビー公爵(当記事の考察に沿えばノランビー伯爵の息子に当たる人物)が高山鉄道のループ線開業式に訪れてスカーロイの列車に乗り、後にデュークに関するピーター・サムの質問に答えていました。これもまた、五代目公爵自身にデュークのことをもっと知りたいという思いがあったからなのではないかと考えられます。さて本作のノランビー伯爵に話を戻しますが、高山鉄道のことだけでなくスティーブンに関しても、走りたいのに走ることができずにいる古い機関車を見てデュークの姿を重ね合わせた伯爵が心を打たれ、それがスティーブンを引き取る動機になった可能性はあります。

☆ヒロ全てお見通し説
本作でのヒロはこれといった活躍がないにも関わらず登場シーンが多々あります。彼が主役だったHOTRを意識しているということもあるのでしょうが、何か他に深い意味があるのでしょうか。例えば、本作のヒロは序盤で再建前のウルフステッド城跡を訪れている他、中盤でメインランドへ行っていたと見られる描写も二回ほどあります。そして、伯爵の計画についてナップフォード駅の他の機関車達が議論を交わす中、ヒロは「新しい橋や新しい駅を造るのには石を使う」と意見を出します。前者は少し的外れですが、後者についてはかなり核心を突いた予想です。その上、「新しい駅の建設」という意見は他の機関車達にとっては予想外だったらしく、エミリーなどはそれについて疑問を呈しています。ひょっとすると、ヒロはハット卿かノランビー伯爵から予め計画の内容を知らされた上で他の機関車より一足早く密かに再建の準備を進めていたのかも知れません。単純にナップフォード駅集会でのヒロの勘が冴えていただけかも知れませんがね。

☆ヘンリーの故障
トビーがトップハム・ハット卿からの伝言を伝えるべくナップフォード駅へやって来ました。その内容とは、ヘンリーが故障したので彼が伯爵の領地まで運ぶ予定だった貨車をパーシーが代わりに運んでくれというものでした。
ここで注目すべきは、ヘンリーが故障したという件に関するゴードンの皮肉とそれに対するトビーの反論です。「まさかまた特別な石炭が必要になったんじゃないだろうな?」「違うよゴードン、それはもう何年も前の話だ」
そもそもヘンリーはゴードンを製造した工場にライバル工場のスパイが侵入して盗んだ設計図を元に造られた欠陥機関車である、というのは今ではファンの間で結構有名な設定ですが、そのせいかヘンリーにはハプニングエピソードが沢山あります。さて、ここでこれまでのTVシリーズにおけるヘンリーの石炭に纏わるエピソードを振り返ってみましょう。まず、第1シーズンの「ヘンリーのせきたん」でヘンリーの不調の原因が石炭にあることが判明し、ウェールズ産の特別な石炭を使うことで一件落着しました。しかしその次の回「フライング・キッパー」でヘンリーは大事故を起こし、クルーの工場で修理及び大改造を受けます。その際に罐も大きなサイズに変えられたので、もう特別な石炭を使う必要もなくなりました。…ところが、長編第1作『魔法の線路』においてヘンリーは調子が悪くなり「ソドー島特産の石炭があれば調子が良くなる」といったことをこぼしています。それだけならまだしも、第10シーズンの「ゴードンでよかった」や第15シーズンの「ヘンリーのとくべつなせきたん」では更に悪化し、特別な石炭(産出地は不明)以外の石炭を補給すると異常な量の黒煙が出て走行もままならないという有様でした。これらの設定改変はファンからもそれなりに批判されていましたが、本作の脚本家であると同時に熱心なトーマスファンでもあるアンドリュー・ブレナーは、ゴードンとトビーの口を借り過去の制作スタッフ達の過ちに現作品制作者の立場で自ら一石を投じたのでしょう。ここにも「原点回帰」を感じることができます。
因みに、後に第17シーズンの「ヘンリーとヒロ」では、質の悪い石炭を補給したヘンリーとヒロの両方が不調となりました。石炭に関するヘンリーのこれまでのジンクスを意識しながらも、ヒロも同様に調子が悪くなっていることから設定改変は起こっていないことが分かります。しかし、ヘンリーの方が早く仕事から離れて機関庫に戻る辺りにはやはり彼の病弱な体質と臆病な性格が表れているように思います。そう言えば、日本未邦訳の原作37巻『Henry and the Express』でも、機関車達が新しい石炭を補給した結果その中でもヘンリーの調子が特に悪くなるという場面があります。
話を戻しましょう。また、今回のヘンリーの故障原因に関しては久々に「安全弁」といういかにもな鉄道用語が出てきました。こういう細かい部分もまたTVシリーズ初期や原作を彷彿とさせます。

☆Triple Header
ブレンダムの港に到着したパーシーが会ったのはジェームスとトーマス。トップハム・ハット卿とノランビー伯爵は、最初から彼らに三重連で貨物を運ばせるつもりだったのです。
二重連ならともかく三重連はトーマスシリーズの中でも滅多に見られない光景です。最も象徴的な三重連は、日本未邦訳の原作27巻『Really Useful Engines』に収録されている第4話「Triple Header」。この話は、原作者ウィルバート・オードリー牧師の跡を継いだ息子クリストファーが初めて執筆した話と言われています。内容は、修理のため工場に入ったゴードンの代理としてヘンリーが急行を牽くことになるも彼も病気になってしまい、苦肉の策としてパーシー、ダック、トーマスが三台で急行を牽くというものです。ダックからジェームスに変更されている点、旅客列車ではなく貨物列車である点など多少の差異はあるものの、本作の三重連は27巻を意識しているように思われます。また、原作ではゴードンの丘でパーシーの蒸気が切れてしまいますが、本作ではそうしたトラブルもなく丘を登り切り、間もなく無事にウルフステッド城へと到着します。

☆スティーブンの登場
トーマス達がウルフステッド城へ運んで来た荷物の中には、一つだけソドー整備工場へ運ぶべき物がありました。理由を知らされず整備工場へやって来た三台を前にノランビー伯爵が荷物の中身をお披露目。現れたのは錆び付いた旧式機関車スティーブンでした。
スティーブンのモデルとなった機関車は、産業革命のさなか1829年ロバート・スティーブンソンらによって設計され世界最古の機関車の一台とされているロケット号。本作でスティーブン自身が昔はロケットと呼ばれていたと語っていること、車体のネームプレートに「ROCKET」とあること、後にレインヒル・トライアルの思い出を語っていることから、本作のスティーブンはロケット号本人と考えて間違いなさそうです。因みに、原作35巻『Thomas and the Great Railway Show』では、トーマスがヨークの国立鉄道博物館を訪ねる場面で顔なしのロケット号が出演しています。となるとスティーブンはノランビー伯爵同様、ある意味トム・ティッパー以来の原作発キャラクターであると言えます。ただし、原作に登場したロケット号は1979年に造られ動態保存されているレプリカですがね。スティーブンのモデル機である1829年製のロケット号は現在サイエンス・ミュージアムに静態保存されています。
初めてスティーブンの名前を知った時、少しトーマスに詳しい人であればトップハム・ハット卿の孫と名前が被っていることに不満を感じた方もいるかと思います。しかしそこには、どうしてもスティーブンという名前でなくてはならない重要な理由が二つあったのです。一つには、スティーブンの設計者の名前がロバート・スティーブンソンであることが挙げられます。ロケット号という実在する有名な車両にオリジナルの名前を付けるとなると反発したくなる方もいるかも知れませんが、設計者の名に因んでいるなどちゃんとした所以のある名前であれば許容範囲なのではないでしょうか。また、スティーブンの設計者と現所有者のファーストネームがどちらもロバートであるのにも何か縁を感じます。そしてもう一つの理由としては、スティーブンという名前そのものの由来が、ギリシア語で「王冠」を意味する言葉「Στέφανος (Stephanos)」にあることです。『トーマスと失われた王冠』という副題からも分かる通り、本作において王冠は非常に重要なアイテムです。また、スティーブンの煙突先端部分は王冠を模したような形状をしています。これも後付け設定とかではなく1829年の実車ロケット号や1979年のレプリカにも共通する特徴なのですが(ただし1829年の方は現在に至るまでの間に煙突の形状が若干変更されています)、果たしてスティーブンソンが設計した機関車の煙突が王冠に似ているというのは単なる偶然なのでしょうか。スティーブンはそんなことも考えさせてくれる機関車です。そうそうスティーブンの名前がハット卿の孫と被っている件について余談ですが、CG版のトップハム・ハット卿にはバートラムというファーストネームがあります。騎士や戦士を連想させる古くも勇敢な機関車スティーブンとバートラムの名前がどちらもハット家の人物名になっているとは、何やら縁を感じます。
さて本作は、陽気ながらも繊細な心を持つ初期型機関車スティーブンが鉄道社会の近代化を目の当たりにし、その上で自分にできる仕事を見つけるまでの過程がストーリーの主軸の一つとなっています。実際のロケット号は1862年、つまり本作の約100年前から博物館に保存されていますが、果たして実際のロケット号は本当に幸せなのだろうか?本作でのスティーブンの奮闘は我々にそんな疑問を投げかけているように思われます。確かに博物館に展示されていればいつまでも人々の注目を集めていることができるが、懸命に働いて誰かの役に立たなければ機関車として生きる意味がない。そうしたトーマスシリーズ独特の人生観がスティーブンの生き様にも反映されているのです。

☆エミリーとヘンリー
ヘンリーの安全弁の不具合は翌朝になっても解消されませんでした。そんな彼を進んでソドー整備工場へ連れて行くエミリー。不調のヘンリーをエミリーが牽引するという構図はきっと第7シーズンの「どうしたのヘンリー」のオマージュでしょうね。しかし今回のエミリーには、ヘンリーの手助けをする以外に整備工場にいるスティーブンを一目見るというもう一つの目的があり、そのために調子が悪いヘンリーを利用したとも言えます。そう考えると、第7シーズンの優しく思いやりに満ちた面と第8シーズン以降の少々腹黒くずる賢い面というエミリーの二面性を同時に描いたシーンと言うことができそうです。

☆仮病
性格描写が特徴的なのはエミリーだけではありません。スティーブンに会ったエミリーとヘンリーの後ろから、特に用事もないのにトビー、ゴードン、エドワードまでもが整備工場に押しかけて来ます。何かと集団行動や野次馬が好きな機関車達です。
ビクターに詰問され、まず故障したヘンリーを連れて来た旨をエミリーが伝えます。それを見たゴードンがわざとらしく煙突の不具合を訴えます。このゴードンの仮病については、第3シーズンの「しんじられるきかんしゃ」や第4シーズンの「サー・ハンデルのけびょう」を意識しているのでしょう。何年経っても未だに仮病癖は治らないようです。
すると何を思ったのかエドワードまでもがブレーキの不具合を訴えます。勿論これもゴードンと同様に仮病でしょう。普段真面目なエドワードがどうして?と思う方もいるでしょうが、ベテラン機関車スティーブンの話を聞けるまたとない機会を逃すまいと思いここぞとばかりに奥の手として仮病を使ったのだとすると、エドワードの賢さが表れているようにも思えます。よほど世界最古の機関車に興味があったのでしょうね。
しかし最終的には、スティーブンに会いに来ただけだということをトビーが空気を読まず正直に告白。いつも少々おどけてはいるものの臆病で嘘がつけないというトビーの不器用さが表現されています。
それはそうと、機関車達が仮病を使ったり仕事をサボったりしてまで会いに来たスティーブンは普通の機関車達に比べどれほど古い機関車なのでしょうか。スティーブンの製造年である1829年を他の機関車の製造年と比較してみるとよく分かります。まず、他の機関車達の中でモデル機関車の製造年が最も早いのは意外にもエミリーです。彼女のモデル機の製造年は1870〜95年ですから、スティーブンより少なくとも40歳以上年下ということになります。また1922年製のゴードンに至ってはスティーブンと93歳も年が離れている計算になります。なるほどこれだけ古い機関車なら自然と野次馬も集まって来るわけですね。

☆スティーブンと馬
野次馬と言えば、スティーブンは馬と深い縁を持つ機関車です。
18世紀以前、速い乗り物の象徴と言えば馬でした。鉄道が発明されてからも最初は馬が客車を牽く馬車鉄道が多く用いられていました。しかし19世紀に入り、馬に代わる新たな乗り物としてリチャード・トレビシックが蒸気機関車を発明。後に続くようにありとあらゆる蒸気機関車が発明されるようになり、その中の一台であるスティーブンことロケット号は45km/hという当時としては驚異的なスピードを誇って人々を驚かせました。馬に勝る速度は一種のステータスであり、それを手に入れたスティーブンら蒸気機関車はまさしく産業界の革命児に相応しかったのです。
他のどの機関車よりも沢山の歴史を見てきたスティーブンは、劇中でパーシーに鎧の騎士を見たことがあるかと聞かれ笑いながら否定します。しかし、中盤のナレーションや終盤のトーマスの台詞にも関係する話ですが、馬に取って代わった存在という意味では寧ろスティーブン自身を近代の鎧の騎士と形容することもできるかも知れません。そしてこの考え方はラストにも影響を与えます。
また、後に第17シーズンの「パーシーのおまもり」で、スティーブンは馬の蹄鉄を幸運のお守りとして所持していることを明かしました。その背景には上記のような事情が関わっているのでしょう。

☆レインヒル・トライアルの武勇伝
スティーブンことロケット号が元々所属していたのはリヴァプール・アンド・マンチェスター鉄道(L&MR)。蒸気機関車を用いた世界初の実用的旅客鉄道と言われます。この鉄道が開通したのは1830年の9月ですが、前年10月にレインヒル・トライアルと呼ばれる機関車レースが開催されています。目的は同鉄道で走行させる機関車を決定すること、そして劇中でスティーブンも語っている通り当時は蒸気機関車という新しい乗り物を認めない人々も多かったので、蒸気機関車の必要性を検証することも兼ねていました。レースに参加した機関車は五台でしたが、スティーブンの回想では彼自身を含め三台の機関車が登場しています。
緑色の機関車はティモシー・ハックワースらが設計したサン・パリール号。重量はあるものの有能な機関車でしたが、途中でシリンダーに罅が入り脱落、三位となりました。レースには負けたもののL&MRに購入され、後にボルトン・アンド・リー鉄道に貸し出されました。その後に特許博物館(後のサイエンス・ミュージアム)にも展示され、現在はシルドンのロコモーション・ミュージアムに静態保存されています。
オレンジ色の機関車はジョン・エリクソンとジョン・ブレイスウェイトが設計したノベルティ号。世界初のタンク機関車とされており軽量かつ高速で、ロケット号を設計したスティーブンソンが最もその存在を恐れた機関車です。しかし途中でボイラー配管に問題が生じ激しく損傷した末に脱落、二位となりました。修理後は数々の実演走行を行い後にセント・ヘレンズ・アンド・ランコーン・ギャップ鉄道に購入されました。現在は実際の車輪とシリンダーを含むレプリカがマンチェスターの科学産業博物館に静態保存されています。
そして最後に残ったスティーブンことロケット号はこのレースを唯一完走し、晴れてL&MRで働くこととなったのです。

☆鉱山と港
スティーブンはレインヒル・トライアルの後、鉱山そして港で働き、一度に四台もの貨車を牽いたと語っています。恐らくこれらもL&MRでの体験でしょうから、港はリヴァプール港、鉱山は多分マンチェスター付近のペナイン山脈にあるいずれかの鉱山ではと推測できます。L&MRで数年間働いた後はブランプトン鉄道でも働いたそうです。
ところで、実際のロケット号は鉱山の鉱物や港の貨物だけでなく乗客も乗せたはずなのですが、スティーブンはその件については語っていません。これは、後にスティーブンがノランビー伯爵から与えられる仕事の件に意外性を出すための演出でしょうか。はたまた、ロケット号はL&MR開業日に世界初の人身事故を起こしたと伝わっていますからスティーブン自身がそのことを話したがらないのだとも考えられます。

☆恐竜
パーシーから騎士に関する質問を受けて否定した後、スティーブンは大袈裟な例として恐竜の話題を挙げ機関車達の笑いを誘います。一見何でもないシーンに見えますが、これは恐竜が重要なキーワードとなる次回作『Tale of the Brave(邦題未定)』への伏線かも知れません。

☆スティーブンの姿
初登場時のスティーブンは錆び付いていてボイラーも壊れ煙突も曲がったスクラップ同然の姿ですが、色などは1829年製の実物のロケット号によく似ています。逆に、ソドー整備工場で修理され炭水車を装備してペンキも塗り直された後の姿は1979年製のレプリカに似ています。いずれにおいても制作側の実車に対するリスペクトの心が窺えますね。因みに修理後のスティーブンは煙突のみレプリカのものと異なる黒い煙突ですが、これも終盤への伏線として重要な部分です。

☆ウルフステッド城鉄道
ウルフステッド城の敷地内には庭園から建物の内部にまで線路が敷かれています。それだけならノランビー伯爵の趣味の一環として片付けられますが、専用のキャッスル駅もあることから完全にソドー鉄道や高山鉄道の一部となっているようです。
オードリー牧師の地図を見れば分かるように、原作の設定ではウルフステッド近辺に鉄道はありません。しかし、原作設定でも20世紀前半にはウルフステッドまで鉄道を延長する計画があったと言います。そもそもウルフステッドという町は昔から歴史愛好家達の注目の的であり、荒廃した遺跡というのは考古学者達にとっての魅力でした。スカーロイ湖について記したハロルド・マラウン卿(13世紀に摂政としてソドー島の政治に携わった人物)の書物がウルフステッド城で発見されたことにより観光客が増加し、閉鎖寸前だったスカーロイ鉄道(高山鉄道)の経済が回復したなんて話もあります。ウルフステッドは、場合によっては鉄道の利益に大きく貢献するかも知れない観光地。それ故、ノース・ウェスタン鉄道(ソドー鉄道)はファーカーから、ミッド・ソドー鉄道はウルフステッド・ロードからウルフステッドまでの路線延長を計画しますが、結局どちらも実現はしませんでした。
本作では、恐らく上記のような話を元にしてウルフステッド付近の鉄道設定が考案されたのでしょう。しかし、本作でウルフステッドまで続いている路線は原作設定で計画されていたものとはまるで違います。まずソドー鉄道ですが、原作ではファーカー線(トーマスの支線)を延長して東のウルフステッドまで到達する予定だったのに対し、本作ではTV(CG)版オリジナル路線として南のマロンから路線が敷かれています。しかしながら、トーマスの支線沿線にあるマッコール農場がウルフステッド近郊に位置しているという情報(諸説あり)から、トーマスの支線もウルフステッドまで続いている可能性は大いにありますが。またソドー鉄道以外の鉄道については、同じ狭軌でもミッド・ソドー鉄道の代わりに高山鉄道(スカーロイ鉄道)と接続しています。しかし原作の設定を意識し、元々ウルフステッドにはミッド・ソドー鉄道が接続していたが鉄道が閉鎖されたので高山鉄道が路線を引き継いだのでは、などと想像してみても面白い。そうなるとミッド・ソドー鉄道時代のデュークがウルフステッド城の伯爵の所まで来ていた可能性も出てきます。また、TVオリジナルスポットであり現在は閉鎖されているウルフステッド鉱山も、もしかしたらスカーロイ鉄道あるいはミッド・ソドー鉄道の主要な財源の一つだったのかも知れません。これについては「スカーロイとウルフステッド鉱山」でも述べます。
以上の考察を踏まえてTV版ウルフステッド近辺の鉄道に関する個人的な予想をまとめると、20世紀前半にソドー鉄道とミッド・ソドー鉄道がそれぞれファーカーとウルフステッド・ロードから路線をウルフステッドまで延長。その後ミッド・ソドー鉄道が閉鎖されるとウルフステッドまでの路線はハロルド卿の書物の件で味を占めたスカーロイ鉄道が引き継ぎ、更に1950〜60年代に入ると新たにマロンからの支線も敷設されウルフステッドはその一部を形成するに至った…とこんなところでしょうか。
余談ですが、ウルフステッド城はウルフステッドの町の中心からは少し離れた郊外にあります。ということは、本作の設定ではウルフステッド駅とウルフステッド・キャッスル駅という二つの駅が存在する可能性も考えられます。無論本作でウルフステッド城の敷地内にある二種のプラットホームはいずれもキャッスル駅と考えて良いでしょう。

☆スコッツマン、マラードとロケット
トーマス、パーシー、ジェームスがウルフステッド城の再建作業に精を出している頃、ゴードンとスペンサーは本線で再び競争に臨んでいました。すると、修理を終え新しい仕事場を求めて走るスティーブンを前方に発見しゴードンは慌てて急ブレーキを掛けます。ゴードンを揶揄して走り去るスペンサー。もどかしげにスティーブンを煽るゴードン。ゴードンを宥めながらのろのろ走るスティーブン。
スティーブン自身はさほど気にしていないようですが、ゴードンとスペンサーのモデル機関車の最高速度がそれぞれ174km/h、203km/hであるのに対しスティーブンはたったの45km/h。ロケットと呼ばれていた過去の栄光を打ち砕くシーンです。馬よりも速く走れて貨車を一度に四台も牽ける力持ちの蒸気機関車スティーブンから早くもハイスピードというアイデンティティが取り除かれてしまいました。
因みにですが、スティーブンが働いていたリヴァプール・アンド・マンチェスター鉄道やブランプトン鉄道はいずれも後にロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道(LNER)に吸収され、このLNERからゴードンやスペンサーが輩出されました。そしてスティーブンはロケット号、ゴードンのモデル機はフライング・スコッツマンを生んだLNERクラスA1/A3(厳密に言えばゴードン自身はクラスA0)、スペンサーのモデル機はマラード号を生んだLNERクラスA4。つまり、1830年代、1930年代前半、1930年代後半という三つの違う時代に同じ地域を当時最速のスピードで駆け抜けた三台の機関車が共演しているわけです。そう思うと何やら感慨深いものがありますね。

☆ディーゼルとパクストン
ブレンダムの港に登場するディーゼルとパクストン。前作『ブルーマウンテンの謎』ではパクストンがトーマスとディーゼルとの間で板挟みになり最終的にはディーゼルを裏切る形となりました。が、本作でもパクストンはディーゼルと行動を共にしています。ディーゼルは自分に不都合なことがあると相手のことをかなり根に持つタイプですが、仲間を見捨てないという慈悲深い面もあるようです。パクストン自身も常にディーゼルの言いなりだった前作と比較すると、スティーブンにからかわれたディーゼルを笑う場面もあったりします。
しかしこの時点でのディーゼルとパクストンの関係はあくまでも同僚あるいは主従であり、少々わだかまりを抱えているように見えます。彼ら二台の間における本当の友情の芽生えは第18シーズンの「Disappearing Diesels(邦題未定)」まで待つことになります。

☆最古の蒸気機関車と無煙化
リヴァプール港で働いていた時代を取り戻そうと思ったのか、スティーブンはブレンダムの港を訪れます。因みに、ブレンダム港は1940年代のリヴァプール港を始めとする大きな港をモデルにしているとも言われています。そこで彼はディーゼルとパクストンに出くわし、ディーゼルから喧嘩を吹っかけられるも逆にディーゼルに「オイルまみれさん」とあだ名を付けて彼を唸らせます。これまでディーゼルが多くの機関車に不名誉なあだ名を付けてきたことを思うと一層痛快です。
あくまで推測ですが、ブランプトン鉄道所属時代を経てからノランビー伯爵に拾われるまで職を失っていたであろうことからして、恐らくスティーブンはこの時に初めてディーゼル機関車に会ったのではないかと思います。しかしオイルまみれさんなどと呼んでいるところからすると既にディーゼル機関車に対して多少の偏見は持っているようです。本作の中でスティーブンが怒りの表情を見せるのもこの場面だけですから、自分達が作り上げたはずの蒸気機関車の隆盛を壊したディーゼル機関車に対してはそれなりに恨みがあったのだろうと分かります。
ディーゼルは散々スティーブンを馬鹿にしていますが、皮肉にもディーゼル及びパクストンのモデル機関車BRクラス08の最高速度は24〜32km/hで、スティーブン以下です。しかし港はスピードよりもパワーが重視される職場。クラス08の牽引力を見てみると160kNで、何とヘンリーやゴードン、スペンサーにも勝る力持ちです。現にディーゼルは馬鹿力で貨車と度々トラブルを起こしているし、パクストンはブルーマウンテンの採石場から毎日重い石材を運んでいますね。対するスティーブンの牽引力は不明ですが、ロケット号が最高速度40km/hで40トンの貨物を牽引していたこと、更にそのロケット号の四年前にスティーブンソン親子によって設計され平均速度7.5km/h(最高39km/h)で80トンの石炭を牽引したロコモーション1号の牽引力が8.5kNだったことを考えれば、ディーゼル達の牽引力が圧倒的なのは火を見るより明らか。クランキーがスティーブンのような古いタイプの機関車を歓迎しないのも無理はありません。そして勝ち誇ったように大昔の蒸気機関車を罵倒しながらパクストンと共に立ち去るディーゼル。一方スティーブンは少し寂しそうな表情を浮かべた後、気を取り直して次なる仕事場を求めに走り出します。本作の時代設定は恐らく1960年代前半、イギリス鉄道史から見ればディーゼル機関車がいよいよ勢いを増してきた時期です。世界最古の蒸気機関車に無煙化の現状を直視させるのはあまりにも酷なことでした。

☆ルークの変貌
次にスティーブンが向かったのはブルーマウンテンの採石場。鉱山で働いていた時のことを思い出していたのでしょう。そう言えば、ブルーマウンテン採石場のモデルになったとされるペンリン採石場やディノウィク採石場はどちらも北ウェールズにあり、リヴァプールともそこそこ距離の近い採石場です。さて、ブルーマウンテンの採石場でスティーブンはスカーロイ、レニアス、ルークと出会いますが、ディーゼルとパクストンのコンビと同様ルークにも前作『ブルーマウンテンの謎』からの成長が見られます。
前作のルークは、過去に自分が起こした事故の件で島から追放されることを恐れ、採石場に匿ってもらい人目を忍んで生活していました。しかしトーマスと出会ったことで仲間の大切さを知り、事故に関する誤解も解けたことからソドー島来島当時の笑顔を取り戻しました。今ではすっかり更生し、前作ではトーマスに名前を聞かれても何も答えなかった彼が本作では初めて会ったスティーブンに自分から進んで名を名乗るほどに成長しています。

☆スティーブンに対する見解
採石場で仕事をさせてくれと頼むスティーブンに対し、ルーク、レニアス、スカーロイはそれぞれ異なる考えを示します。
ルークはスティーブンの懇願にかなり肯定的な態度をとりました。かつて自分が採石場で働くことを仲間達が許してくれたのと同じように、自分もスティーブンを新しい仲間として受け入れたいという思いがあったのでしょう。
レニアスは最初はスティーブンが働くということに難色を示すも最終的には物は試しだと同意しました。原作20巻を読めば分かる通りレニアスは昔から優等生でしたから、ちゃんと働けるか分からない機関車に手伝ってもらうような非合理的なことはできればしたくなかったのでしょう。因みに今回のことで懲りたのか、後に第17シーズンの「ルークとミリー」で採石場へ手伝いに来たミリーに対しレニアスは本作より更に厳しい態度をとっています。
スカーロイは少し悩んだもののスティーブンを受け入れました。彼はレニアスとは対照的に昔は仕事が下手でしたから、少しぐらいなら仕事の進みが遅れても問題ないだろうという寛容な気持ちがあったのかも知れません。
余談ですが、スカーロイとレニアスは本作に登場する機関車の中でスティーブンに続き二番目三番目に古い機関車です。どちらもちょうど100歳程度のはず。
更に関係のない話ですが、屋根のないスティーブンは若き日のスカーロイやレニアスの姿を連想させますね。確か、ルークのモデルになった機関車の中にも屋根なしのものがあったように思います。

☆スティーブンの力
スティーブンは石材の貨車を牽こうとするもなかなか牽くことができず、貨車を一台まで減らしてようやく走ることができました。しかし、スピードを上げようとしたところ前方のカーブで脱線しかけてしまいます。
スティーブン自身が言っている通り、重い石材を積んでいて貨車も大きかったことが原因なのでしょう。しかし、仮にもスティーブンはかつて鉱山で働いたり貨車四台分の貨物(計40トン)を牽引したりしていたというのに、流石に石材貨車一台を牽くのがやっとというのは少なすぎではないでしょうか。また、牽引力が9kN弱と高山鉄道の中で最も小さく前述のロコモーション1号とも大差ないルークでさえ、別の話で明らかにスティーブンより多くの石材を運んでいる描写があります。するとつまり、かつてスティーブンが牽いた貨車と石材貨車の重さの違いだけでなく、スティーブン自身の老化もこの一件の原因だったのではないかと推測することができます。自慢のハイパワーを否定され、それだけでなく自らの老いさえも感じ、更に満足なスピードも出せないまま脱線しかけたとなれば流石のスティーブンも途方に暮れるしかありません。

☆スカーロイとウルフステッド鉱山
ブルーマウンテンの採石場の近くに別の鉱山はないかと尋ねるスティーブンに対しスカーロイはウルフステッド城近くの鉱山の話をしますが、今は誰も働いていないかも知れないと気付き一抹の不安を感じます。
ウルフステッド鉱山はTVオリジナルスポットです。ブルーマウンテン以外に近くの鉱山と言えば模型時代によく登場していた高山鉄道の採石場がありますが、あそこには標準軌の線路が殆どありません。ですから、もしウルフステッドに鉱山があるのならスカーロイがそちらの鉱山を勧めるのも不思議ではありません。一つ疑問なのは、標準軌しか走っていない上に今は誰も働いていないウルフステッド鉱山のことを何故スカーロイがそんなによく知っていてしかもそれをスティーブンに勧めたのかということ。標準軌の線路が少ないから高山鉄道の採石場を勧められないのならば標準軌の線路が走っていて活気もあるファーカー採石場辺りを勧めればいいし、誰も働いていないであろう鉱山に仕事があるとも思えない。何故スカーロイはスティーブンにわざわざウルフステッド鉱山を勧めたのでしょう。もしかしたら、スカーロイは鉱山のことをスティーブンに故意に教えた可能性があります。例えば何の根拠もありませんが、スカーロイはひょっとすると最初からウルフステッド鉱山に潜む秘密を知っていたのかも知れません。後のシーンのネタバレになるので言葉は濁しますが、「伯爵と高山鉄道」や「ウルフステッド城鉄道」の項にも書いた通りスカーロイや高山鉄道はソドー伯爵家やウルフステッドと浅からぬ縁があるので、スカーロイがノランビー伯爵以上に「ウルフステッド鉱山の秘密」について熟知していた可能性は否定できません。その場合、自分では鉱山に入ることが不可能なので、標準軌でしかも暇そうにしているスティーブンに鉱山のことをわざとリークしたのかも知れません。もしそうだとしたら、黒幕とまではいかないまでもなかなか危ない機関車ですね。流石に無根拠すぎる説でしょうか。

☆世界探検と観光産業
一方ウルフステッド城のトーマス、パーシー、ジェームスはノランビー伯爵のコレクションを目にして驚愕していました。世界探検の中で集めた王様の椅子、投石機、旗、タペストリー、古い石像や盾、そして鎧。伯爵は再建したウルフステッド城を一般公開してこれら中世のお宝を展示しようと言うのです。
ノランビー伯爵は希代の鉄道マニアにして歴史マニアです。「ノランビー伯爵の素性」の項にも書きましたが、歴史コレクションの中でも戦争関連のものが多いのはやはり伯爵が元軍人なのが所以でしょうか。にしても、世界中のあらゆる歴史財産を手に入れたのに故郷ソドー島にあるはずのゴッドレッド王の王冠だけは見つからないとは何とも皮肉なものですね、灯台下暗しと言いますか。
歴史コレクションだけでなく、伯爵が所有する機関車もきっと世界探検の中で出会ったものなのでしょう。例えばミリーはフランス製ですからフランスで伯爵と出会った可能性が高いです(ただし「ミリーの登場」の項にある通り伯爵の世界探検より前から島にいたとも考えられます)。この後に登場するコナーとケイトリンはメインランドつまりイギリス本土に所属していますが、モデル機はアメリカ製なのでアメリカかイギリスのどちらかで伯爵と出会ったのでしょう。スティーブンはさしずめ、ブランプトン鉄道での仕事がなくなってリヴァプール近郊のスクラップ置き場辺りにいたところを伯爵に拾われた、といったところですかね。
「ウルフステッド城鉄道」の項で述べたように、ウルフステッド城は歴史家や観光客の注目を集めている貴重な遺産です。それがかつての姿に再建されて一般公開され、更にソドー島や世界中の歴史財産が展示されなおかつ鉄道マニア向けに特別な機関車まで走っているとなれば、ウルフステッド城だけでなくソドー鉄道や高山鉄道、島全体の観光産業に大きく貢献するのは間違いありません。ノランビー伯爵はそうすることで、二十年も留守にしていた故郷に恩返しをしたかったのかも知れませんね。

☆コナーとケイトリン登場の意味
メインランドからヴィカーズタウン橋を渡ってソドー島に入島し、ヒロ、ジェームス、ゴードンとスペンサーを次々と追い抜かして猛スピードで走り去ったのは、競争好きな二台の流線型機関車コナーとケイトリン。彼らの登場にはどのような意義があるのでしょう。
コナーのモデルになったのは1937〜38年製のニューヨーク・セントラル鉄道(NYC)クラスJ3ハドソン。ケイトリンのモデルになったのは1927年製のボルチモア・アンド・オハイオ鉄道(B&O)クラスP7プレジデント。いずれもアメリカ製の機関車ですが、本作の彼らはメインランドの鉄道つまりイギリス国鉄の所属になっています。アメリカ嫌いの原作者に配慮してなるべくアメリカ製であることを強調しないようにしたのかも知れません。本作での初登場後、コナーとケイトリンは観光客を乗せてメインランド〜ソドー島ウルフステッド城間を高速で結ぶようになります。
コナーとケイトリンの最高速度は不明ですが、どちらもスピードを出すことを目的に設計された流線型機関車です。少なくとも1922年製で最高速度174km/hのゴードンよりは速く、世界一速い蒸気機関車の一台であり1935〜38製で最高速度203km/hのスペンサーよりは遅いのでしょう。しかし本作のコナーとケイトリンはスペンサーをも容易く追い越しました。これも「ゴードンとスペンサー」の項に書いたようなソドー島の魔法なのか、それとも単純にスペンサーがゴードンとの競争で手を抜いていたことが明るみに出ただけなのか。
ケイトリンが所属していたB&Oは、イギリスでスティーブンが生まれるよりも前の1826年からあった古い鉄道で、ちょうど本作の時代設定と同時期の1963年チェサピーク・アンド・オハイオ鉄道の管理下に置かれました。因みにケイトリンのモデル機は1927年製ですが、ちょうどコナーが製造されたのと同じ頃、無煙化に対抗するべく流線型化されて現在の姿になったとのこと。一方コナーが所属していたNYCは1853年の開通ですが、20世紀半ばに赤字と無煙化に悩まされ、その影響でコナーのモデル機であるハドソン型は1956年までに全車両が廃車されました。となるとノランビー伯爵はいつどこでコナーに出会ったのでしょう。1956年以前に現役のコナーを見つけて購入したとも考えられるし、1956年以降に廃車の波から逃れて運良く生き残っていたコナーを引き取ったとも考えられます。もし後者なら、コナーが「ケイトリンより我慢強い性格」とされていることには彼の過去も関わっていそうです。その他、英語版のコナーとケイトリンはどちらもアイルランド系アメリカ人風の訛りで喋っています。これは、NYCもB&Oも開業当初はアイルランドからの移民従業員が多かったからだそうです。
さてここからが本題ですが、コナーとケイトリンはきっと原作に登場する高速ディーゼル特急ピップとエマのオマージュなのではないかと思います。機関車の種類や速度こそまるで違いますが、ゴードンを唸らせるほどのスピード、二人一組のコンビ、ソドー島とメインランドを結んでいる、など共通点が多く見つかります。また、どうしてコナーとケイトリンがソドー島とメインランドを結ぶ高速列車を任されたのか。これはピップとエマにも関係あることですが、最新式で流線型の機関車をメインランドへ派遣することで、ソドー島にはこうした機関車が他にも沢山走っているのではと現地の人々に誤解させようというノランビー伯爵やトップハム・ハット卿の戦略が隠れているのかも知れません。

☆ウルフステッド鉱山の繁栄
自分の仕事を見つける最後のチャンスと思ってウルフステッドの鉱山にやって来たスティーブンですが、非情にもトンネルの入口は板で覆われ完全に閉鎖されていました。絶望したスティーブンが戻ろうとしたまさにその時、トーマスとパーシーの押す貨車が暴走列車となって突っ込んで来ます。咄嗟に板を突き破ったスティーブンは鉱山の中に閉じ込められ、トーマス達もそのことに気付かず行ってしまいます。
「ウルフステッド城鉄道」や「スカーロイとウルフステッド鉱山」の項でも述べた通り、ウルフステッド鉱山はソドー島の鉄道にとって重要な財源だったのだろうということが、鉱山内に数多の線路が張り巡らされていることからも分かります。流石にもうネタバレしてもいいと思いますが、ここには行方不明とされていたゴッドレッド王の金の王冠が眠っていました。するとよほど穿った見方でもしない限り、王冠を盗んだ泥棒達がそのまま鉱山に王冠を隠したのだと考えるのが普通です。泥棒達と別の人間との間で売買されたのではないかなどとも考えられますがキリがありませんので単純に考えましょう。ということはウルフステッド鉱山は鉄道が敷かれるよりずっと前、ゴッドレッド王の時代つまり中世から使われていた可能性が高い。近代には機関車が働いていたこの鉱山ですが、では鉄道が出来る前の中世には誰が働いていたのか。それが次の「鉱山と王冠」の項に関わってきます。

☆鉱山と王冠
スティーブンは鉱山の中で王冠を発見します。鉱山へ入る時に煙突を失くした代わりに鉱山の中で失われた王冠を発見する、というのも何かの因果でしょうかね。
中世のウルフステッド鉱山では誰が働いていたかを考えると、当時は世界中で身分や貧富の差が激しかった時代ですからきっと貧しい労働階級の人々が支配階級の人々から働かされていたのでしょう。ここで「王冠騒動」の項の説(4)を思い出してみてください。ウルフステッド鉱山で王冠が見つかったことから、この鉱山で働いていた労働階級の坑夫達が上流階級へのストライキもしくはクーデター目的で王冠を盗んだのではないかとする説がここで現実味を帯びてきます。
島民から愛されていたゴッドレッド王は労働階級に対しても慈悲の心を忘れなかったはずですから、彼らが政権に反抗するとすればゴッドレッド王の死後だと考えられます。よってゴッドレッド王を破ったオークニー伯シグルド以降の支配者による過酷な仕打ちに労働者達の怒りが爆発し、かつて素晴らしい政治を行っていたゴッドレッド王の王冠を掲げて新たな支配者や上流階級に反抗しようとした、というのが妥当かと思います。鉱山の中に王冠を隠せる可能性は坑夫が最も高いということを考慮すればかなり信憑性のある説ではないかと。

☆Searching Everywhere
行方不明になったスティーブンを捜すべく、トーマス、パーシー、ジェームス、コナーとケイトリン、そしてソドーレスキューセンターの面々が出動。
三重連シーンで流れた「Working Together Again(さあ はたらこう)」もそうですが、日本語版だと挿入歌「Searching Everywhere(さがそう あちこち)」は初めて日本語歌詞字幕が表示された代わりに一部がカットされショートバージョンになっています。
それはさておき、行方不明になった機関車をみんなで捜索するというシチュエーションは前にもありました。『トーマスをすくえ!! ミステリーマウンテン(以下、TGDと表記)』や『ミスティアイランド レスキュー大作戦!!(以下、MIRと表記)』でのトーマス捜索が代表的な例です。本作ではこれらの作品における捜索シーンのことも意識しているのでしょうが、上に挙げた二作ではソドー島中のキャラクターがトーマスを捜索していたのに対し本作では限られたキャラクターのみがスティーブンを捜索していて現実感が増しています。
それにしても、この挿入歌「Searching Everywhere」の歌詞は「何を探すか」よりも「探す」という行為そのものに重点を置いているように思えます。ですから、この曲には行方不明のスティーブンだけでなく、努力とか友情といった形のない別のものを探し出すというような意味も込められているように思われてなりません。また「スティーブン」などの固有名詞が歌詞に含まれていないことから、前作から引き続き使用された「Working Together」のようにこの曲も次回作で再び使われるのでは、と私は予想しています。

☆鉱山内での蒸気切れ
鉱山内で出口を探そうと一晩中走り回ったスティーブンも遂に蒸気を殆ど使い果たして止まってしまいます。
鉱山やトンネルの中で蒸気が切れるという絶望的なシーンは今までにも描かれたことのあるものですね。TGDでは鉱山の中でトーマスが水に浸かり罐の火が消えました。MIRではトーマスに同行していたバッシュ、ダッシュ、ファーディナンドのオイルが海底トンネル内で切れ、蒸気を出せなくなりました。本作のスティーブンもこれらとよく似た境遇に陥っています。TGDは状況がだいぶ違うからともかく、MIRのトーマスやバッシュ達と本作のスティーブンはトンネルの中で行く手を塞がれた上に蒸気を上げられないという共通の状況にあり、そしてこれらはどちらもトーマスシリーズ最初期の「でてこいヘンリー」をリスペクトしている可能性が考えられます。

☆汽笛のSOS信号
誰もいない場所で動けなくなった機関車は自分の居場所をどのようにして知らせるか。TGDで人里離れた土手に突っ込んだトーマスは汽笛を鳴らしてスタンリーを呼び寄せました。MIRでトンネルに閉じ込められたトーマスは天井の穴から一定のリズムで煙を上げパーシーやハット卿に気付かせました。汽笛も煙も蒸気機関車を主役にしたトーマスシリーズならではの情報伝達手段です。
本作では、トーマスがウルフステッド鉱山の入口付近に落ちている煙突を見て鉱山内にスティーブンが閉じ込められていると考え、汽笛を鳴らしました。するとスティーブンもトーマスの汽笛に気付き、僅かに残っていた蒸気をありったけ使って最大限の汽笛を鳴らします。つまりTGDと同じパターンですね。TGDやMIRでは遭難者側だったトーマスが本作では発見者側です。ですから、二度も心細い思いをしたトーマスには今のスティーブンがどんな気持ちでいるか普通の機関車以上によく分かったのでしょう。それがスティーブンを少しでも早く救おうという彼の迅速な行動に繋がったと思われます。
機関車にとっての汽笛や警笛は各々の個性であり、きっと鳴らすだけで相手に自分の考えや思いを伝えることもある程度は可能なのでしょう。姿を見ずとも声を聞かずとも相手と気持ちを分かち合える汽笛や警笛の存在もまた、人間にはない機関車の魅力と捉えることができます。

☆逃げた機関車
ジャックの助けを借りて鉱山に入り、スティーブンを発見して外に連れ出すトーマス。眩しそうに瞬きをするスティーブンと、それを見て歓声を上げるノランビー伯爵やジャック達。
このシーンで最も意識されているのは第7シーズンの「ファーガスときそく」ですね。規則を破った自分がもう役に立てないと悟って逃げ出し動けなくなったファーガスをトーマスが発見し、彼が大切な存在であることを説いてから向き合って連結しバックで走り出すという構図。本作に酷似しています。初期型機関車スティーブンと鉄道用牽引車ファーガスの形状が似ているのも意図的なものでしょうか。また、TGDでもスタンリーがトーマスに彼の存在の大切さを説いてから向き合って連結し彼を土手から救助するシーンがあり本作とよく似ています。自己嫌悪から行方不明になった機関車を仲間の機関車が発見して彼の存在の大切さを説き正面から連結して救出するという流れはもはや様式美と言ってもいいレベルです。
余談ですが、スティーブンを救助する際、トーマスは「スティーブンと馬」の項で書いたのと同じようにスティーブンを鎧の騎士に例えました。それを聞いたスティーブンは「立派な騎士も鉱山にいては役に立てないから」と呟きます。この台詞もまた、古い鉱山に置き去りにされていた「戦士」バートラムを連想させますね。

☆伯爵とスティーブン
スティーブンが行方不明になった時、そして救出された時、ノランビー伯爵の脳裏にあったものは何でしょうか。恐らくはデュークの姿でしょう。デュークはミッド・ソドー鉄道閉鎖後に山の機関庫に取り残され、後に土砂崩れで機関庫が埋没したことにより捜索が困難となりました。伯爵はスティーブンがかつてのデュークの二の舞になることを恐れたはずです。また、スティーブンが救出された際にはデュークを救出した鉄道マニア達の姿をトーマスやジャックに重ね合わせたかも知れません。
スティーブンがいなくなったことによるノランビー伯爵の心理変化も重要です。伯爵は確かに仕事を失っていたスティーブンを引き取り修理させましたが、本作の劇中ではスティーブン初登場時に彼の修理をビクターに依頼し、それ以降は殆どスティーブンと関わることなく領地でウルフステッド城の再建作業を進めていました。他人をびっくりさせることが好きな伯爵は良かれと思ってそうしていたのでしょうが、伯爵の行動は寧ろスティーブンの不安感を募らせる結果となります。一方トーマスは伯爵とは正反対のことを考えてスティーブンに仕事の話をしましたが、それもまたかえってスティーブンの気持ちを揺さぶることになり、結果的に彼の失踪を招いてしまいました。トーマスがスティーブンを助け出した時、伯爵はスティーブンへの接し方を反省し彼と正面から向き合うことの重要性を学んだのでしょう。スティーブンが必要な存在であるということを伯爵がここで初めてスティーブン本人に直接伝えているのがその証拠です。

☆二度目の救出
ウルフステッド鉱山へと続く線路は古く、下の木材は一部が腐っていました。その上をスティーブンや暴走貨車、トーマスらが頻繁に走行したので、トーマスがスティーブンを救出したところでとうとうスティーブンの線路が崩壊。長編映画恒例の橋に纏わるトラブルです。
トーマスはMIRで建設中の橋から落下寸前のディーゼルを引っ張って助けています。ディーゼルの重さが51トンなのに対しスティーブンは4.5トン。数字だけ見ればスティーブンを助けるのは圧倒的に簡単という印象を受けますが、ここでは一つ問題があります。それは、線路の一部が崩れたことにより線路全体がスティーブンの方に向かって傾斜していることです。トーマスはスティーブンを引っ張りつつ急な上り坂をバックすることが要求されるわけですからかなりの重労働です。引っ張ろうとすると車輪がスリップします。そこで活躍するのがジャックです。

☆困った時の友達
ホイールローダーのジャックは自分のバケットを線路下の木材に押し当ててスティーブンを下から支え、トーマスを援助します。
本作の直前に当たる『ブルーマウンテンの謎』においてトーマスは、崖から落ちそうになったところを自分よりもずっと小さい機関車ルークに救助されています。ルークが自分を助けたのに自分がスティーブンを助けないわけにはいかないと思ったのでしょう。
更にここで重要なのが、第6シーズンの「こまったときのともだち」の回です。トーマスが崩れかけの橋にさしかかった時、ジャックは落下しそうになるトーマスを橋の下から全力で支えて彼を救いました。そのジャックが当時と同じように支えてくれている手前、スティーブンの救助に失敗することなど決してあってはならないと強く思ったのでしょうか。トーマスは全身の力を込め、見事スティーブン救出に成功します。

☆スティーブンの客車
翌日、いよいよウルフステッド城のお披露目の日が訪れます。ソドー島中やメインランドから観光客が沢山訪れ、機関車達も集結。正式にウルフステッド城の案内役機関車に任命されたスティーブンもそこにいます。頭には新しく白い煙突を装備し、そして二両の客車を牽いていました。
一両目は水色の無蓋車。第16シーズンの「トップハム・ハットきょうのたんじょうび」で、かつて若き日のトップハム・ハット卿を乗せてエドワードが牽いていたとして登場した客車と同じものです。この客車は1930年代にL&MRで使われていたものと同型であり、またヨークの国立鉄道博物館ではロケット号のレプリカがこの客車のレプリカを牽いて実演走行する光景が見られます。
二両目の青い客車もL&MRにあったのと同型であり、やはりこの客車のレプリカがヨークの国立鉄道博物館でロケット号のレプリカと共に働いています。
客車に至るまで演出がとことん実際のロケット号に忠実であることがよく分かりますね。

☆鎧伯爵
スティーブンの客車に乗っていたのは鎧。鎧が手を振っていると怯えるパーシーをトーマスが笑うお決まりのパターンが繰り広げられますが、今度は本当に鎧の中に人間、ノランビー伯爵が入っていました。
伯爵は、かつて鎧を着用し勇敢な騎士達を引き連れて戦ったゴッドレッド王や自身の先祖アーノルド・ド・ノーマンビー卿に対する敬意を込めて彼らと同じように鎧を着込んだのだと思われます。コナーとケイトリンを鎧の騎士に例えていることなども含め、そういう意味ではこのお披露目は一種の壮大なコスチューム・プレイなのではないかと考えられます。コスチューム・プレイは、現在の「コスプレ」とは少し意味合いが違い、派手な衣装を纏って行う歴史劇のことを指します。伯爵は、自らが憧れたゴッドレッド王やアーノルド卿になり切り、再建されたウルフステッド城という最高の舞台や現代の鎧の騎士すなわち機関車達を用いて中世のソドー島を現代風に再現したかったのでしょうね。
「鎧」の項で、終盤に登場する鎧が17世紀以降に作られたものだろうと仮説を立てたのはこれが理由です。歴史愛好家である伯爵がコスチューム・プレイに使用する鎧なら、恐らく中世に実際に用いられた鎧ではなく装飾品として作られた比較的新しいものだろうと推測できるわけです。
観衆の前に立ったノランビー伯爵は、ウルフステッド城一般公開の宣言、まだ完全ではないがウルフステッド城をゴッドレッド王の時代の姿で復興させたいと考えていること、歴史の目撃者である特別な蒸気機関車スティーブンがミリーと共に城の案内役になること、そしてスティーブンが発見したゴッドレッド王の失われた王冠についてスピーチで述べました。このスピーチの中にも、歴史と鉄道そしてソドー島に対する伯爵の愛を見出すことができます。

☆塞翁が馬
ノランビー伯爵のスピーチを聞いて上機嫌のスティーブンに、トーマスは自分が仕事の話をしなければスティーブンは鉱山に閉じ込められたりしなかっただろうと謝りました。しかしスティーブンは全くトーマスを責めることなく、逆に鉱山に閉じ込められなければ金の王冠を見つけることもできなかっただろうと語ります。
最近のトーマス作品では「AをしたからBという悪い結果になった」→「Aをするべきではなかった」という単純な話が多々ありましたが、本作では失敗や事故がかえって良い結果を招く(「AをしたところBという悪い結果とCという良い結果が同時に起こる」)こともあり、Aという行動が正しかったのか間違っていたのか一概に判断することはできないという現実的な教訓が示されています。まさに塞翁が馬。中国の故事ですから無関係とは言え、こんなところにも馬が関わっていますね。

☆駆ける騎士達
大昔のソドー島では、騎士達が城と城の間で度々競争を行っていました。そして今回、ノランビー伯爵は「現代の鎧の騎士」として高速機関車コナーとケイトリンを紹介。なるほど確かに彼らの輝く頑丈な車体はどこか鎧のように見えなくもありません。更にトップハム・ハット卿の許可を得てゴードンとスペンサーも参戦することになり、大規模な機関車競争の開催に観衆や他の機関車達は盛り上がります。流石は近代競馬の発祥の地イギリスですね。ようやく正式に決着を付けられる時が来てゴードンとスペンサーも満更でもなさそうな表情。
観衆や機関車達が見守る中コナー、ケイトリン、ゴードン、スペンサーの四台が位置に着き、かつて騎士達を率いたゴッドレッド王のように旗を振り下ろすノランビー伯爵。そして四台の機関車──光り輝く鎧の騎士達が一斉に走り出します。
競争の結果は本作では描かれません。視聴者が各々好きな結果を想像できるようにという配慮でしょう。ですが一つ不要なことを言わせてもらえば、後に第17シーズンの「おさわがせなケイトリン」で、ゴードンに会ったケイトリンが上機嫌なのに対しゴードンは酷く不機嫌そうな顔をしています。この様子からして、多分ゴードンは少なくともケイトリンには負けたのでしょう。

☆世代交代
四台はウルフステッド城から続く下り坂を猛スピードで駆け抜けて行きます。トーマスとスティーブンは一歩引いた城の上からそれを見下ろし、目を合わせて笑顔を浮かべます。
中世、ゴッドレッド王や鎧の騎士達よりも前の時代から近代まで走り続けてきた馬。900年後、産業革命の中で誕生し馬に取って代わったスティーブンら蒸気機関車達。それから100年の間に更に速い機関車や強い機関車が数多く生まれ、スティーブンもまた昔の騎士や馬と同じように時代の主役の座を次世代へと譲りました。
しかし、スティーブンの笑顔の裏には決してゴードン達に対する羨望の気持ちはありません。何故なら、彼はもう既に自分のなすべきことを見つけ過去の栄華への未練を絶ったからです。これからスティーブンがすべきことは速く走ることでも重い物を運ぶことでもなく、ウルフステッド城の案内役の仕事を通し、自らが見てきた沢山の歴史を後世に伝えていくこと。そして機関車にとって本当に幸せなことは、現代の鎧の騎士つまり時代の主役になることではありません。また、一線を退いて博物館に入り人々の注目を集めることでもありません。例え主役になれずとも、もしくは主役の座を失っても、誰かの役に立つことこそが機関車にとっての幸せであり、それが『きかんしゃトーマス』のテーマでもあります。
スティーブンは、かつてレインヒルで近代の鎧の騎士として競い合った自分やノベルティ、サン・パリールらの姿を現代の鎧の騎士ゴードン、スペンサー、コナー、ケイトリンに投影していたに違いありません。しかし、ゴードン達だっていつまでも現代の騎士でいられるわけではありません。彼らが競争しているこの瞬間にも世間では無煙化が進行しており、遅かれ早かれディーゼルやパクストンらといったディーゼル機関車に時代の主役の座を奪われることになるでしょう。「コナーとケイトリン登場の意味」の項で述べた通りコナーはディーゼル機関車の台頭によって仲間を失った過去があるし、本作の時代設定で言えばメインランドにいるゴードンやスペンサーの兄弟は現在進行形で次々と廃車されています。ケイトリンは無煙化の影響で高性能化した珍しい例ですが、彼女にも無煙化によって失った仲間は少なからずいたと考えられます。勇ましい表情で走っている彼ら四台も、現代の騎士としての自分達の存在意義が失われつつあることは薄々実感しているはずです。それでも、時代の主役となったからにはその役目が終わるまでとにかく全力で走り続けなければならない、現代の鎧の騎士達はそんな使命感を背負いながら駆けているのでしょう。かつてスティーブン達がそうであったように。

☆描きかえられた絵本の輝き
主題歌「It's Gonna be a Great Day」の最後に再建されたウルフステッド城が映し出され、それが冒頭で登場した絵本の挿絵へと帰結します。序盤では廃墟同然の城跡だったウルフステッド城が、最後にはゴッドレッド王と騎士達が駆け抜けた1000年前と同じ姿になっていました。
原作者ウィルバート・オードリー牧師は、ウルフステッド城を既に廃れてしまった城跡として設定しました。その設定を敢えて覆し、ノランビー伯爵の夢やトーマスとスティーブンの冒険を軸にウルフステッド城が全盛期の姿を取り戻すまでの過程を一作かけて描いたのが本作というわけです。原作『汽車のえほん』の設定を尊重しつつそこに+αとして新たな設定を付け加えていくという、TV版きかんしゃトーマスのあるべき姿がここに表現されているようにも思えます。
さて、ゴッドレッド王が住んでいた中世のウルフステッド城の輝きは、ゴッドレッド王がいなくなり王冠も行方不明となったことで失われました。しかしゴッドレッド王に代わるノランビー伯爵という新しい城主が現れ更にスティーブンが王冠を発見したことで、ウルフステッド城はゴッドレッド王がもたらした黄金時代の輝きとはまた異なる輝きを手に入れました。
スティーブンは、130年前に手にした速くて強い蒸気機関車としての地位を失い、時代の中心にいられなくなった自分の存在価値を見出せずにいました。しかし、王冠の発見やトーマス達との友情の芽生えを通して考えを変化させ、時代の中心からは一歩引いたウルフステッド城という新天地で役に立つ機関車として生きていこうと決意します。その生き方は決して時代の主役、現代の鎧の騎士に相応しいものではありません。しかし、新しい人生を歩み出したスティーブンの姿は紛れもなく光り輝く騎士に例えることができます。
機関車にせよ人間にせよ、全て古い者もいれば新しい者もいるものです。新しい者はその時代の主役として栄華を極め、古い者は時代の中心から去ることを余儀なくされます。しかし、古い者はもう輝くことができないかと言うとそれは違う。全盛期を終えた者でも新たなレールを見つけることさえできれば別の場所で別の輝きを手に入れることができます。新しくても古くても関係なくそれぞれのレールの上にそれぞれが光り輝く騎士として存在できる。本作でトーマスとスティーブンが教えてくれたテーマはそういうことなのかなと私は思います。流石に考えすぎですかね。
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初めまして

初めましてですがもうなんといえばいいのやら(いい意味で)。考えさせられました。
改めてトーマスが子供だましの物語でないことを改めて認識しました。ブレナーさんもすごいけどこれを書いた筆者さんもすごい。
KOTRはよく考えられた話なんだなァとしみじみ。

Re: 初めまして

>トゥー助さん
こちらこそ初めまして、長文ですが読んでくださりありがとうございますm(_ _)m そちらのブログもたまに拝見させてもらってます。
そうですね、KOTRは深く考えれば考えるほど小ネタや伏線が溢れていてブレナーさんを始め制作側の作品に対する愛を感じます。
次回作TOTBにも期待したいですね。

はじめまして

はじめまして!!テンセンツです。
あなたに影響されて書き始めました!
こんこんさん、これだけ考察できるなんてすごいです!!
お世辞じゃありません、本当に。
もしよければ、僕のブログも見ていってください!!
「テンセンツ トーマス」と書けば出てくると思います。
何ぞとよろしくお願いします。

Re: はじめまして

>テンセンツさん
初めまして、返信が遅くなってしまい申し訳ありません。私に影響されてブログを始めた方がいるとはとても光栄です。こちらこそよろしくお願いします。
「TEN CENTS RAILWAY GENSOUKYOU STATION」、拝見させていただきました。まだ書き始めのようですが、とても意欲が感じられる内容ですね。今後も期待しています、更新頑張ってください!

Konkon

どうも管理人です。
きかんしゃトーマスが好きなだけの一般人。よろしくお願いします。