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質問箱より Q1「ソドー鉄道の食料品輸送について」

研究・考察
06 /20 2016
○Q
 ソドー鉄道の貨物輸送において生鮮食料品を無蓋車に積み込むという光景が度々見られるが、ソドー鉄道の運送事業という観点から見てこの件には何らかの事情があるのか。

○A
 『きかんしゃトーマス』劇中における鉄道ルール的な面での考証が甘くなった大きな節目は2004年制作の第8シーズンであるとよく言われます。第7シーズン以前、とりわけ第4シーズン以前はエピソードの多くが原作のエピソードを映像化したものであり、厳格なリアリストであった原作者ウィルバート・オードリー牧師の意思を反映したものが大半でした。原作者死後の第5シーズン以降はエピソードの殆どが原作にないオリジナルのものになったものの、イギリス国鉄中部管理局の元局長デヴィッド・メイドメントを鉄道顧問に起用するなどしてある程度は実際の鉄道システムに忠実な物語となっていました。しかし、番組を制作していたガレイン社をヒット・エンターテインメントが買収すると、ヒット社は第8シーズンを制作するに当たってスタッフを一新し制作体制も大きく変更。体制変更の主要な目的は、番組の主な視聴者層である未就学児にとってより理解しやすくより親しみやすい作品を制作することでした。例としては主人公の登場シーンの増加、登場キャラクターの限定と主要キャラクターの固定、ストーリーの単純化、女子視聴者層の拡大を狙った女性機関車エミリーの登場シーン増加などです。そして、ココアパウダーや小麦粉、果物や生魚のような食品類、あるいは本や小包といった有蓋車での運搬が望ましいと思われる荷物を無蓋車に直接積載したり、もしくは小麦粉を包装などせず有蓋車に直接積載したりといったシーンが頻繁に描かれるようになったのもこの頃です。
 番組開始当初から制作陣の一員であり、最も制作に長く携わったスタッフの一人で第8~12シーズンには監督も務めたスティーブ・アスクィスは、この無蓋車輸送の演出について「自分と他の少数のスタッフは違和感を感じたが、我々の意見は番組に反映されなかった」と述べています。また、第6シーズン頃から制作に参加し第16シーズンまで脚本監督を務めていたサム・バーローは「トマトでいっぱいの貨車を視覚的に表現したいとき、トマトの絵が描かれた有蓋車を使って表すことはできる。しかしそれでは、赤いトマトでいっぱいの無蓋車を見るのに比べればインパクトに欠ける。未就学児向けの物語を視覚的に表すには後者の方が有効なのだ」として、この演出を肯定しています。これらのことを踏まえると、子供向け作品でありながら厳密な考証により大人でも楽しむことが可能であったガレイン社の『きかんしゃトーマス』に対し、ヒット社は本来の視聴者層である幼児の人気拡大を図るのと引き換えに鉄道番組としての側面を取り払ってしまった。すなわち、子供番組としての作品の存在意義を重視しすぎてしまったわけですね。これが、劇中で食品類の運搬に無蓋車を使用するようになった最大の要因だと思います。
 上記のような事情の他、無蓋車を用いた方がトラブルを描きやすいという部分もあります。第7シーズン以前は、貨車に積まれた果物や魚が事故で飛散するダイナミックな場面を描く際、機関車に有蓋車自体を破壊させる必要がありました。その点、第8シーズン以降は貨車に軽く衝撃を与えるだけで簡単にトラブルを起こせるため撮影が楽でした。前述した小麦粉の有蓋車に関しても、機関車が衝突した衝撃で貨車の扉が開き小麦粉が線路に零れ落ちるというトラブルシーンで使用されています。
 食品等を無蓋車に積載する演出はCG化後の第15シーズンまで続きました。ヒット社がマテル社に買収された後の第17シーズンからは再びスタッフが一新され、鉄道顧問サム・ウィルキンソンが起用されたことなどもあってこの前後から劇中の演出が第1〜7シーズンに近い実際の鉄道システムに即したものとなり、食品も有蓋車で運ばれることが多くなっています。しかしながら、箱や瓶、袋、樽などで覆われているとは言え魚やスコーン、ミルク、クリーム、塩、ジャムなどを無蓋車で運搬するシーンは度々登場し、また箱詰めされたパンや魚が剥き出しの状態で無蓋車に積まれているようなシーンも依然として存在します。こうした、CG化後のトーマスにおける同様の演出には視覚的な分かりやすさや事故シーンのダイナミックさに加えてまた別の理由もあります。と言うのは、模型時代には有蓋車・無蓋車に関係なく様々な貨車に顔が付いていましたが、CGになってからは何故か灰色ないし黒色の無蓋車にしか顔が付いていないのです。しかしそんなCGモデルの事情に反し、第17シーズンからはいわゆる「いたずら貨車達」が機関車に悪戯をする場面が以前より頻繁に登場するようになりました。当然、顔の付いた貨車でなければ悪戯をすることはできませんから、貨車の悪戯を原因としたトラブルを描く場合には問答無用で無蓋車を使用しなければならないというわけです。それが証拠に、第16,17シーズン中では魚を運搬する特別貨物列車フライング・キッパーが計三回登場していますが、「ウィフのねがい」「おさわがせなケイトリン」に登場した同列車は全て有蓋車で編成されていたのに対し、貨車が機関車をからかうシーンが描かれた「サカナなんてこわくない」だけは無蓋車が編成に含まれています。
 さて、ここまでは制作陣側の“大人の事情”という観点から食品運搬シーンについて見てきましたが、質問者様の質問は「ソドー鉄道の運送事業に何があったのか」ということですので、上記のような事情から生まれた違和感ある演出について物語の設定的に無蓋車使用の理由を考えてみるとどうでしょう。半ばこじつけ的な考え方ですが、最も妥当なのは「何らかの事情によりソドー鉄道の有蓋車が不足したため止むを得ず無蓋車を使うことにした」という説ではないかと思います。例えば、原作27巻(日本未邦訳)第3話「Fish」及びテレビ版第4シーズンの「さかなにはきをつけろ」の回では臨時のフライング・キッパー運行が決定した際、何年も使われていない古い貨車を含めて列車を編成する描写がありました。恐らく貨車不足のためではないかと思われますが、ソドー島の産業の中心とも言える長距離貨物列車も満足に編成できないほど有蓋車が足りないということが明らかになったこの場面は、ソドー鉄道の経済的窮乏を表しているように思います。従って、後のシーズンで食品輸送に無蓋車を使っているのも、こうした有蓋車不足が更に進行した結果かも知れません。考えてみれば、この鉄道が十分な量の貨車を確保できない原因は沢山思い当たります。まず第一に事故の多さ。『きかんしゃトーマス』の劇中では異常な頻度で事故が発生しますが、トップハム・ハット卿は事故を起こした機関車を叱る程度で、事故によって生まれた経済的損害に触れることは滅多にありません。恐らくはどんな大事故であっても簡単に解決できるだけの莫大な権力と財力を兼ね備えているためと思われますが、そうは言っても、トップハム・ハット卿がヘンリーの石炭の種類を変えるに当たって石炭の値段を気にしたり、あるいはパーシーが事故でお客の服を汚した際に弁償のことに言及していた点などを見ると、鉄道経営上の不安が全くないというわけではないようです。トップハム・ハット卿にいくら力があったとしても、機関車達があれだけ事故を起こしているとなれば経済状況が芳しいとはとても思えません。にもかかわらず、彼は事あるごとに新しい機関車を導入するなどしています。つまり、本来であれば貨車に回すべきお金を事故の後始末や新しい機関車の購入といった別の場所へ回しているせいで貨車不足が起こっているのではないか、ということです。比較的最近のエピソードである第18シーズンの「サムソンがおとどけ」では、サムソンが六両の急行用客車を牽いていっただけで急行列車の運行ができなくなり仕方なくアニーとクララベルを急行客車の代わりに使用するという場面が描かれていますから、貨車だけでなく客車についても同じことが起きている模様です。また、かつてイギリスの鉄道では鉄道会社が貨車を私有せず様々な企業から貨車を借りるというケースが多々ありました。そのため満足に点検されていない貨車が多く走行時のトラブルが多発した、という事情が「いたずら貨車」という発想の原点であることはコアなファンの間では有名な話ですが、それ故にソドー鉄道の機関車が事故で貨車を破壊した場合は鉄道側が貨車の持ち主に弁償しなければなりませんし、機関車達が同じようなことを繰り返せば企業はソドー鉄道を信用しなくなり貨車を貸してくれなくなるでしょうから、ここでも資金不足と貨車不足が発生するわけです。もっとも、前述の通り「いたずら貨車」は有蓋車より無蓋車に多いのですから、貨車の悪戯が原因である事故をきっかけとして無蓋車以上に有蓋車が不足するというのは些か矛盾ではありますが。
 以上、私なりに考えを述べさせていただきましたがいかがでしょうか。

参考資料

□文献
○『汽車のえほん(The Railway Series)』ウィルバート・オードリー及びクリストファー・オードリー著
・第6巻『みどりの機関車ヘンリー(Henry the Green Engine)』
・第27巻『Really Useful Engines』
・第37巻『Henry and the Express』

□映像
○『きかんしゃトーマスとなかまたち(Thomas and Friends)』ガレイン・エンターテインメント及びヒット・エンターテインメント制作
・第19話「フライング・キッパー(The Flying Kipper)」
・第77話「くだものれっしゃ(Percy, James and the Fruitful Day)」
・第84話「さかなにはきをつけろ(Fish)」
・第119話「みどりのくじら(Something in the Air)」
・第162話「アーサーのきろく(The Spotless Record)」
・第167話「アーサーとさかな(Something Fishy)」
・第180話「パーシーのいったとおり(Percy Gets it Right)」
・第183話「さかな(Fish)」
・第195話「トーマス、ただしくやる(Thomas Gets It Right)」
・第196話「トーマスにはあつすぎる(Too Hot for Thomas)」
・第229話「ドタバタミルクシェイク(Thomas' Milkshake Muddle)」
・第230話「トーマスとこむぎのちから(Flour Power)」
・第238話「スムーズにはしる(A Smooth Ride)」
・第239話「あのこむぎこをおいかけろ!(Follow that Flour)」
・第281話「トーマスのドッキリ‼さくせん(Thomas and the Big Bang)」
・第288話「トーマスとくさいチーズ(Thomas and the Stinky Cheese)」
・第308話(?)「Push Me, Pull You」
・第329話「トーマスとキリン(Thomas' Tall Friend)」
・第331話「エミリーとせんたくもの(Pingy Pongy Pick Up)」
・第334話「ディーゼルのとくべつなにもつ(Diesel's Special Delivery)」
・第335話「トーマスとコルクのせん(Pop Goes Thomas)」
・第381話「ウィフのねがい(Whiff's Wish)」
・第385話「トップハム・ハットきょうのたんじょうび(Happy Birthday Sir!)」
・第395話「おさわがせなケイトリン(Calm Down Caitlin)」
・第397話「ヒロといたずらかしゃたち(No More Mr. Nice Engine)」
・第400話「サカナなんてこわくない(The Smelly Kipper)」
・第402話「アフタヌーンティーきゅうこう(The Afternoon Tea Express)」
・長編第9作『勇者とソドー島の怪物(Tale of the Brave)』
・第426話「きみはたいせつなともだち(Long Lost Friend)」
・第436話「サムソンがおとどけ(Samson at Your Service)」

□ウェブサイト
Thomas the Tank Engine Wikia
Puff Puff THOMAS!
Sodor Island - A Thomas Fan Site

執筆:2015年4月某日
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Konkon

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きかんしゃトーマスが好きなだけの一般人。よろしくお願いします。